支援を届ける赤十字の「人」

赤十字のネットワークを活かした国際活動

 自然災害や紛争、感染症などのさまざまな人道危機に対して人道支援を展開していくためには、お金や物資の支援だけでなく、それらの支援を現地に届け、活動を展開する「人」が欠かせません。日本赤十字社(以下、日赤)は国際救援・開発協力に従事するスタッフである「国際救援・開発協力要員(国際要員)」を派遣し、現地の赤十字スタッフやボランティアと協力して人道支援活動を行っています。

 国際要員への道のりは、赤十字が主催する研修の参加から始まります。自身のもつ語学力や各専門分野の知識・経験に加え、赤十字の理念や仕組み、海外派遣時の安全管理などを研修のなかで身につけ、日赤の国際要員として登録されます。世界192の各国赤十字・赤新月社の一員である日赤は、各国の社、国際赤十字・赤新月社連盟、赤十字国際委員会と連携し、保健医療をはじめ、さまざまな分野で人びとの苦痛の軽減と予防のために活動しています。これまで医師、看護師、薬剤師等の医療職のほか、事業管理、地域保健、防災、心理社会的支援など、多様な背景をもつ「人」が国際要員として各国で活動に携わってきています。

国際要員としてのきっかけと思い

 こうした「人」がどのようなきっかけで国際要員を目指し、どのような思いで活動しているのか?今回は、バングラデシュへ派遣された国際要員の声から一部をお届けします。

 日赤は2017年以降、ミャンマー・ラカイン州で相次いでいる暴力行為からバングラデシュへ逃れた人びとの命と心身の健康を守るため、バングラデシュで保健医療を中心とした支援を続けており、現在まで医療職や事業管理要員、心理社会的支援要員など延べ160人の国際要員を派遣してきました。

赤井 智子(助産師)

 以前から国際医療救援に関心がありましたが、先輩方の体験談を聞くうちに一緒に活動したいという思いが強くなり、看護師になって6年目から現実的に国際要員を目指しました。インドネシアのジャワ島中部地震救援に派遣された時、日赤の仮設診療所を訪れる大人に看護師としてケアはできても、妊産婦さんや赤ちゃんに対しては知識や技術がないため何もできなかったという思いが残り、帰国後、助産師になろうと大学院に行きました。助産師となり初めて派遣されたバングラデシュでは、炎天下のなかミャンマーから命からがら逃げてきた方がたが手を伸ばして助けを求めてくる姿に、心が痛みました。母親の中には、脱水状態で母乳が出ない方もいて、何も飲むことができず命の危機にさらされて赤ちゃんもいました。私たちは安全な水で作った経口補水液やわずかな薬を届けるのが精いっぱいでした。それでも、今にも消え入りそうだった赤ちゃんの命の灯が、経口補水液を口に含んだ瞬間、少しだけ瞳が開いて、輝きを取り戻すのを目の当たりにして「間に合った、命をつなぎとめることができた」と実感し、とても嬉しかったです。

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中島 久元(理学療法士)

 海外旅行で行ったカンボジアの小さな病院で、地雷で下肢を失った方がたが義足を作ってもらうために並んでいた姿を目前にし、自分には何ができるだろうと思いが募っていたところ、理学療法士として働く中で赤十字の国際救援活動を知り、自分の感じた思いを体現するものはこれだ!!と国際要員になろうと思いました。研修では同じような想いや目標を持つ多くの仲間たちと過ごし、すごく楽しかったです。また、“こころとからだは繋がっている”ことから、自分の専門以外の分野であるPSS(※)について学ぶことで理学療法もより深まると考え、関連する研修を多く受けました。PSS要員としてバングラデシュへの派遣時、身体に障害があり、1人で立てない男の子がチャイルドフレンドリースペース(※)に訪れるようになりました。初めは誰とも目を合わさず、無表情で感情表出があまり見られませんでしたが、周りの子どもたちと一緒に活動していくうちに徐々に笑い、怒り、周りの子と肩を組んで遊んだり、喧嘩までするようになりました。彼の劇的な変化を目のあたりにし、苦しい状況の中でこうした場所の重要性を確信しました。

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※ 心理社会的支援(Psychosocial Support: PSS):日赤の国内救護活動では、「こころのケア」活動を実施していますが、国際救援活動においても、PSSは、紛争、災害下の被災者のこころの健康を守り、レジリエンスを高めるために行っている赤十字の代表的な活動の一つです。

※ 子どもにやさしい空間

国際要員を目指す方へ

 日赤では「国際要員ウェブサイト」を通じて、国際要員の体験談、派遣先での活動についての帰国報告会や勉強会などのイベント情報を随時更新しています。今回紹介したバングラデシュでの保健医療支援のほかにも、他の地域・分野での多岐にわたる活動に従事する国際要員の声についても掲載しておりますので、これから国際要員を目指す方、日赤の国際活動に関心のある方、ぜひ国際要員ウェブサイトを訪れてみてください。

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