アフガニスタン気候変動対策事業 ~複雑化する人道危機への取り組み~
日本赤十字社(以下、日赤)は2020年7月から、アフガニスタン赤新月社※(以下、アフガン赤)と国際赤十字・赤新月社連盟(以下、連盟)と協力し、干ばつや洪水の被災者等、気候変動の影響によって生活を脅かされている人々を支援する5か年事業を行っています。今号では、事業2年目(2021年7月~2022年6月)の活動やその成果をお届けします。 ※アフガニスタンにおける赤十字社。
■人々の暮らしに更なる深刻な影響を与えた政変
本事業2年目の活動をお伝えする上で、2021年8月に起こった政変を避けることはできません。当時、2021年6月頃から激化した紛争や、同国からのアメリカ軍の撤退、新たに政権を掌握したタリバンの動向が大きな注目を集めましたが、それら政変に関する出来事の後、世界からの関心が下がる一方で、アフガニスタンの人々が抱える危機は複雑化し、深刻化しています。
その要因の一つは、それまで国際社会からの支援に依存していたアフガニスタンの経済や公共サービスが、政変に伴う支援の制限や国外資産の凍結を受け、同国内の現金不足、現地通貨価値の下落を招き、さらには、銀行機能の麻痺や物価の高騰、医療施設の運営圧迫など、現地の人々の暮らしに直接的な影響を与えているためです。2021年の1年間だけで70万人もの人々が、食べ物と少しでも安全な場所を求めて、住み慣れた土地を離れて国内避難民となりました。加えて、政変以前から深刻化していた過去27年間で最も深刻な干ばつは、貧困と食糧危機に拍車をかけ、国民の過半数にあたる2200万人もの人々が緊急支援を必要とする事態に発展しています。
■事業2年目の取り組み
この事態を受けて、日赤は政変直後からアフガン赤との話し合いを重ね、変化する現地のニーズに対応しました。連盟や赤十字国際委員会(以下、ICRC)を通じて、国内避難民等への生活必需品の提供やへき地で一次医療サービスを提供する「移動型医療チーム」のための緊急資金援助を行ったほか、本事業では、当初予定していた第2事業年度の活動の大部分を、現地で最も必要とされている食料支援に変更することとしました。
人口の半数以上が深刻な食料危機を抱える中で、収入のない世帯、ひとり親世帯、病気や障がいをもつ方がいる世帯等の基準を設け、事業対象地の村人たちが自ら支援の対象者を選定してリストを作成することで、最も支援を必要とする人びとに支援が行き届くように配慮しました。その結果、支援の手から取り残されることが懸念される女性の対象者にも、確実に食料配付が行われています。また、同国内の食料不足と物価の高騰を受けて、連盟は隣国パキスタンに臨時チームを置き、物資調達を支援しました。アフガニスタンの平均世帯人数7人が1か月間十分に暮らせる量と栄養価が計算され、米、小麦、油、塩、砂糖、ビスケット等が手配されました。
数々の制約を乗り越えて、2022年7月上旬、事業対象地である西部ヘラート州の3地区、サマンガン州の2地区の計1500世帯への食料配付が無事完了しました。
配付に先立ち、アフガン赤が中身の確認を行う(C)ARCS
配付会場から食料を運ぶのを手伝うアフガン赤ボランティア(C)ARCS
■緊急支援と同時に進める長期的な支援
一方で、当初計画どおりに完了した活動もあります。本事業で取り組む「生計支援」活動の土台となる、「新たな生計手段の獲得に向けた現地市場調査」もその一つです。外部コンサルタントを採用し、対象2州において行政機関の持つ雇用状況などの基礎データの収集に加えて、①行政機関及び事業組合、②小規模企業主、③小規模企業の非雇用者、④災害等により職を失った人とのグループディスカッションやインタビューを行うことで、変化するニーズや事業地村落の状況等、人々への聞き取りによってのみ得られる情報を収集しました。その後、性別や年齢ごとに支援対象者を設定し、実現・持続可能性、収益予測、初期費用、資源へのアクセスの容易さに加え、人々の好みや必要とされる労力をもとに、現地に適した職業が検討されました。最終的に、ヤギの飼育、携帯電話の修理、養鶏、裁縫等8つの職業が選定されました。
今後は、この調査に基づき、適切な支援対象者の選定や職業訓練、市場での販売に関する研修等を順次開始する予定です。政変以前から継続している本事業では、長期的視点をもって、事業対象地の人びとと、長い間地域に根ざした活動を続けるアフガン赤を支援し、本事業終了後も事業の成果が継続されるような取り組みを目指して活動を続けていきます。
また、ウクライナ紛争など世界情勢が厳しさを増す中で、日赤は、長引き深刻さを増す同国への支援のために、「アフガニスタン人道危機救援金」受付期間を2023年3月末まで延長しました。
緊急支援、そして気候変動対策として行う本事業の2つを行う赤十字の活動に、今後とも皆様の温かいご支援とご協力をお願いいたします。
募集期間を延長して受付中です。皆さまの温かいご支援をよろしくお願いいたします。
募集期間:~2023年3月31日(金)