人びとの声を聴き、ともに歩む:ルワンダの辺境で 立ち上がる人びと
日本赤十字社がルワンダ赤十字社と実施する「ルワンダ気候変動等レジリエンス強化事業」が開始されてから3年がたちました。事業対象地域では今、新たな変化が起こっています。今回の国際ニュースは、日本赤十字社ルワンダ現地代表部首席代表、吉田拓職員からの報告をお届けします。
■ルワンダで最も貧しい地域、ギサガラ郡
「あの地域は歴史的に経済発展から取り残されてきた。新しい農業技術を教えようとしても、住民は保守的で耳を傾けなかったものだ。」
これは、私たちがプロジェクトを実施しているルワンダ南部にあるギサガラ郡とその人びとについて、実際にルワンダのある人から聞いた言葉です。ギサガラ郡は、隣国のブルンジと隣接している辺境で、開発が後回しにされてきた経緯があり、国内で最も貧しい地域の一つと言われています。この場所で、日本赤十字社は2019年12月から、ルワンダ赤十字社と協力して「ルワンダ気候変動等レジリエンス強化事業」を実施しています。このプロジェクトは、人びとを災害から守るため、自分たちで生活の基盤を築く力をつけることを目的としています。私たちが特に大切にしていることは、現地の人びとが主導する暮らし向きの改善です。
ギサガラ郡の事業地から見たブルンジⓒ日本赤十字社
とはいえ、言うは易し、です。「あそこは貧しすぎて、プロジェクトを数年やったくらいでは、住民が自立するところまではいけないよ。あまり期待を高くしないように。」ルワンダ赤十字社の同僚たちも、ギサガラ郡でプロジェクトを実施することの難しさを察してか、プロジェクトを始めた当初は、「理想を語るムズング(現地語で“外国人”の意味)」の私に念を押したものでした。
■自立に向けた第一歩
その頃、まずは事業地の村で有志の住民を募り、「地域連帯クラブ」という会員制のルワンダ版町内会の設立を支援し、16団体が立ち上がりました。赤十字ボランティアは地域連帯クラブと一緒に活動し、栄養や衛生についての知識の普及や、家庭菜園の手入れ、家畜の世話などについての指導を行っています。
また、それだけではなく、会員全員が毎週、地域連帯クラブにお金を預け入れて共済基金を作り、生活に困っている会員に貸し出したり、困窮している会員に無償で国民健康保険費用を支払ったり、寝具を購入したり、家畜を購入したりしています。基金の総額は開始して1年で約18万円相当、2年目で約150万円相当に急成長しています。
さらに今年から、日本赤十字社東京都支部のユースボランティアや青少年赤十字メンバーの皆さんの協力を受けて、地域連帯クラブが中心となり、貧困のために小学校へ行くことを諦めてしまった子どもたちとその家族を支援する活動も始まる予定です。
地域連帯クラブの会議の様子ⓒ日本赤十字社
3年前、自立することすら難しいと言われていた人びとですが、今は、困っている村人がいたら助け合うようになりました。村の成長の原因はなんだろう、と現地スタッフに聞いても、変化の渦中にいるので、なぜ変化が起きているのか答えられないようです。
■主役は地域の人びと
「この土地の野菜の育て方は自分たち(住民)が一番よく知っているから、赤十字に指示されたくないと言われました。」ルワンダ赤十字社の本事業担当職員のダマスは、ぼやきます。毎日、ダマスは村を訪問し、赤十字ボランティアや地域連帯クラブの会員と打ち合わせを行い、プロジェクトが予定通りに進んでいるかを確認しています。改善が必要であればクラブに申し入れるのですが、ギサガラ郡の住民は頑固で一筋縄ではいかない、ということです。身体が大きく一見威厳のありそうなダマスが、住民の話を神妙に聞いている様子を思い浮かべると、本人には悪いのですが微笑ましいです。そして地域住民の成長の背景には、「頑なな」住民と、ダマスほか、その地域出身の赤十字ボランティアたちとの間の程よい緊張関係があるのかもしれません。赤十字の現地スタッフは、赤十字のやりたいこと・やるべきことありきで動くのではなく、住民のニーズを聞き取って活動に反映します。住民の話を聞き、一緒に意思決定することで、赤十字のプロジェクトではなく、住民のプロジェクトとして地域に根ざしていきます。
プロジェクトにはいつか終わりが来ますが、その地域の人びとの暮らしはずっと続いていきます。プロジェクトの中で築かれる助け合いの仕組みは、プロジェクトが終わった後も続いていく必要があります。「住民に寄り添い、住民の自立を目指して併走する」という赤十字の方針は、住民が常にオーナーシップを持ってプロジェクトを進めることで上手く行くのだと思います。
今は助けられている人が、いつか、困っている人びとを救う人になる。どんな状況にあっても、人が持つ力を信じ、そのような未来を見るために、赤十字は働き続けます。