ウクライナ人道危機:地域の赤十字と協力して進める日赤の中長期支援~巡回診療支援~
ヨーロッパ最大とも言われる「ウクライナ人道危機」が発生してから間もなく1年3か月を迎えます。
武力紛争は終結することなく、引き続き民間人を含む死者や負傷者が報告されているとともに、ウクライナの総人口の3分の1に当たる1,300万人の避難民は未だにもとの住み家に帰ることのできない現実の中、新しい日常への適応を求められています。
建物の攻撃被害を受けた人びとに寄り添うウクライナ赤十字社ボランティア©URCS
赤十字の支援も緊急救援から中長期支援のフェーズに動き始めており、日本赤十字社(日赤)も同様、以下のように、ウクライナ赤十字社と協力して実施する事業、より中長期に目を向けたプログラムへの資金拠出などに支援を拡大してきました。
現金給付支援
ウクライナ赤十字社が実施する現金給付支援への資金援助。日赤からは特に国内避難民を受け入れるホストファミリーに対する現金給付支援を行いました。
資金拠出額:4億4,200万円
緊急対応基金支援
武力紛争の流動的な状況に合わせて、柔軟かつ迅速に人道支援ニーズに対応できるよう設立された緊急対応基金に対する資金援助を行いました。
資金拠出額:2億200万円
救急車支援
救急車10台(救護班用5台+巡回診療用5台)の支援を実施しています。ウクライナ国内での調達が困難なため、日赤が連盟を通じて調達及び資金援助を行いました。
資金拠出額:5,100万(5台を支援済)
厳冬期対策支援
エネルギー供給が限られる中で厳しい冬を越せるよう、発電機や家庭用の薪ストーブ3,000台、その他生活用品を支援しました。
資金拠出額:4億2,200万円
今回は、日赤の取り進める中長期支援の一つである「イヴァノ=フランキウスク州巡回診療支援」について、その背景や進捗を現地にいる職員のインタビューと合わせてお伝えします。
■ひっ迫する医療システム、高まる保健医療ニーズを補完する巡回診療
長引く武力紛争により、ウクライナの医療システムは計り知れないほどひっ迫した状況が続いています。紛争の影響による700件以上の医療施設の攻撃に加え、国内の広い範囲に及ぶ避難民の増加、医薬品や医療資機材、医師の不足など、武力紛争はウクライナ国内の医療システムに大きな打撃を与えています。ウクライナ赤十字社は、国内の一次医療サービス(病気や外傷などの治療だけではなく、疾病予防や健康管理など、地域に密着した保健・医療・福祉にいたる包括的な医療)を支援し強化するため、様々なエリアで巡回診療(医師と看護師からなるチームが1台の車で医療が届きづらい地域を訪問し、医療を届ける支援)を運営しています。巡回診療が稼働する場所は、攻撃の影響で医療インフラが破壊されたところや、国内避難民の大量流入により医療システムに更なる負担が加わったところです。
日赤は避難民が多く集まるウクライナ西部イヴァノ=フランキウスク州における巡回診療の支援を2022年12月より開始し、これまで約8,000万円の資金援助及び、事業管理を担う日赤の保健医療要員を派遣しています。
2023年3月より現地に派遣されている大阪赤十字病院の仲里泰太郎薬剤師より報告です。
巡回診療を受けるウクライナ東部からの避難民
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私はウクライナ赤十字社が運営する巡回診療事業をサポートするため、今年の3月からイヴァノ=フランキウスク州へ派遣されています。
ここでは5つの巡回診療チームが活動し、山間部などの医療アクセスの厳しい場所で地元の住民を中心に診療が行われてきましたが、増加する国内避難民により焦点を当てて巡回診療を展開するため、公民館やホテルなど避難所での展開の可能性を模索し、拡大しています。4月初旬からこれまで7~8か所の集団避難所や、救援物資の配付場所で地元住民を含む多くの人びとへの診療を実施することができました。最近では、受診者の多くが心疾患の患者であることがわかり、心電計の調達準備を進めるなど、適切な医療を届けるため現地のニーズに対応しています。
実際に巡回診療を行うと、診療を待つ人びとで長蛇の列ができ、保健医療の需要が高いことを実感します。避難民の多くは知らない土地で、知らない人たちとの生活を始め、不安なことばかりです。自ら外に出にくい状況の中、医療アクセスの難しい地域での巡回診療は大変歓迎されています。
診察に立ち会う仲里薬剤師(左から2人目)
印象的な出来事だったのは、武力紛争により辛い経験をした一人の受診者の話を聞いた際、一度帰宅したその受診者が戻ってきて、私にお守りとコップを渡し「健康と無事を祈っている」と感謝を伝えてくれたことです。職や居住場所が安定しない状況の中、人びとは今を耐えて懸命に生きていることを強く感じました。
また、一緒に働くスタッフを通じて、子どもたちに日本のことや、どんな仕事をしているのかを伝える機会があり、その際に「日本は災害大国なのに、綺麗な街を保っているのはどうして?」と復興について聞かれたことも印象的でした。「私たちも地震や津波などの災害で街が壊れて何度も苦しい思いをしてきたけれども、その度に立ち上がって乗り越えてこれた。だからきっと皆さんも大丈夫。」と伝えてきました。
現地の子どもたちに講義をする仲里薬剤師
今回、この人道危機が始まって以来2回目のウクライナへの派遣となりますが、1回目の派遣に比べて、人びとの生活の近いところに触れる機会が多く、避難民や、スタッフが必死に前を向いて生きていること、支援を続けていることが伝わってきます。
皆さんのご寄付や思いはウクライナの皆さんにも確実に届いていますので、これからも引き続き思いを寄せていただければ嬉しいです。
巡回診療チームメンバー、避難所で過ごす国内避難民の皆さんと一緒に
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今回のような大規模で先が見えない人道危機に対応していくためには、地元に根付いて活動しているチームを、日赤を含め国際赤十字の仲間が総力をあげてサポートしていく必要があります。日本赤十字社はこれからも多方面での支援を継続し、地元の赤十字、国際赤十字と共にこの人道危機への対応を続けます。
「ウクライナ人道危機救援金」
受付期間:2022年3月2日(水)~2024年3月31日(日)
使途: 国際赤十字・赤新月社連盟、赤十字国際委員会、および各国赤十字・赤新月社が実施する、ウクライナでの人道危機対応及びウクライナからの避民を受け入れる周辺国とその他の国々における救援活動を支援するために使われます。