アフガニスタン:悪化の一途をたどる人道危機、支援要請の拡大に日本赤十字社は2600万円の追加資金援助を決定
2021年8月の政変から2年、アフガニスタンを取り巻く人道危機は現在も悪化の一途をたどっています。3年連続の深刻な干ばつ、気候変動による大災害、経済崩壊、数十年来の紛争など、絶え間なく続く複合的な人道危機は同国の人びとの状況を悪化させており、アフガニスタンの人口3分の2にあたる2,880万人が緊急の人道支援を必要としています(OCHA)。
アフガニスタンで起きているこの複合的な人道危機は、見過ごしてはならない「世界最大規模の人道危機の一つ」となっています。今号では、アフガニスタンの今をお伝えします。
雪が積もる中、裸足で過ごすアフガニスタンの子ども©IFRC / Meer Abdullah Rasikh
■アフガニスタンを取り巻くいくつもの人道危機
―食料危機―
食料安全・農業クラスター(FSAC)によると、1,550万人が急性食料危機に直面し、そのうち270万人が飢餓直前の状況にあると報告している。特に女性と子どもへの影響は甚大で、約320万人の子どもと84万人の妊娠・授乳中の女性が中・重度の栄養失調とされている。
800軒の女性世帯に食料品を配付©IFRC / Meer Abdullah Rasikh
現金給付プログラムによる支援©IFRC / Meer Abdullah Rasikh
―貧困問題―
国連開発計画(UNDP)の発表によると現在同国の人口85%以上の人びとが貧困ラインを下回った中で生活をしている。多くの人びとが農業関連の仕事を主な収入源としていているため、相次ぐ干ばつの影響に苦しみ続けている。特に過去2年間は貧困に苦しみ、路上生活や物乞いをせざるを得ない人びとが急増している。
―自然災害・気候変動による災害―
地震、洪水、地滑り、雪崩、干ばつなどの自然災害が繰り返し発生し、壊滅的な影響を受けている。国際支援を必要とする人道危機リスクは世界第4位であるとされ、加えて気候変動の影響を最も受ける脆弱な国々の15カ国のうちの1つでもある。
2023年7月下旬にも季節外れの大雨により、50人が死亡、1,200棟の家屋が損壊。耕作地や数百の家畜が流される災害が発生している。
2023年7月アフガニスタンの9州を襲った季節外れの大雨により損壊した家屋©IFRC / Meer Abdullah Rasikh
アフガニスタン赤新月社は巡回診療チームにより支援の行き届きにくい地域での一次医療サービスを提供©IFRC / Meer Abdullah Rasikh
―保健医療や水・衛生にかかる問題―
公的な医療への資金が限られているため、特に農村部では医療へのアクセスに大きな格差がある。麻疹、急性の下痢症、デング熱、マラリアなどの感染症の発生も見られる中、連続する干ばつにより同国全土で水へのアクセスも悪化し、十分な給水・衛生環境を整えられない状況にある。
―メンタルヘルスにかかる問題―
数十年にわたる紛争、経済困難、その他既存の人道危機、加えて薬物乱用により、多数の人びとが精神に疾患を抱えている。国連は、アフガニスタン人の2人に1人(ほとんどが女性)が 2021年8月より前から心理的な苦しみを抱えていたと推定しており、その数は国際的にも高い数字である。
生活難に苦しむ女性に声をかける連盟スタッフ
©IFRC / Meer Abdullah Rasikh
2022年6月の大地震で多数の建物が崩壊し1000人以上が命を落とした©IFRC / Meer Abdullah Rasikh
―2022年6月の大地震の復興課題―
昨年6月22日、アフガニスタン南東部を襲った大地震は今も被災地に大きな傷跡を残している。緊急フェーズにおける支援は終わったものの、損壊した家屋の再建などを含む復興への課題は多数存在し、来たる2度目の厳冬期に向けた対応が急務となっている。
■アフガニスタン赤新月社は国内外からの支援のもと着実に支援を拡大
2021年以降著しく深刻化した人道危機の状況を受け、国際赤十字・赤新月社連盟(連盟)は緊急救援アピール(緊急資金援助要請)を発出し、国際社会へ広く支援を呼びかけてきました。2023年7月現在、アピールをもとに届けられた支援は170万人に達しています。
◇主な支援実績◇
保健医療支援・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・100万人
水・衛生および衛生促進(WASH支援)・・・11万5,000人以上
防寒キットの配付・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6万8,000人
食料・生活用品の配付・・・・・・・・・・・・・・・・50万人以上
現金給付支援・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11万2,000人
雪の中ダウンジャケットやブーツを子どもに手渡す赤十字スタッフ©IFRC / Meer Abdullah Rasikh
また、アピールの資金をもとにした支援に加えアフガニスタン赤新月社は国内外からの援助を受け、全国34州に活動を拡大し、350万人(50万世帯)以上に包括的な支援を届けました。各地の地元の2万4,600人以上(6,700人の女性を含む)のボランティアが対応に当たっています。
一方、国際社会からの支援や資金援助が減少している現実もあり、長期化する人道危機の中で、いかに弱い立場に置かれた人びとに焦点を当てた支援を届けるかが重要となっています。連盟は今月8月15日にアピールの改訂を行い、資金要請額を1億2,000万スイスフラン(約198億円)へ増額。支援期間の延長と同時に対象者をより脆弱な立場にある人びとに絞った支援計画を策定しました。
この度の改訂を受け、日本赤十字社は、皆さまからご協力いただいている「アフガニスタン人道危機救援金」をもとに、連盟アピールへ2,600万円の追加資金援助を行うことを決定しました。今回の支援により、同人道危機アピールへの資金援助合計額は6,300万円にのぼります。新たに発生する世界各地の様々な自然災害や紛争に関心が移っていく中で、皆さまからの温かなご支援により、アフガニスタンの人々が忘れ去られることなく継続的な支援を受けられていることをご報告します。
深刻な干ばつに見舞われたファラ州で暮らす家族©IFRC / Meer Abdullah Rasikh
緊急的(一時的)な支援だけではなく、継続的かつ一貫した支援が必要である同人道危機に赤十字はこれからも向き合い続けます。
今後とも変わらぬご理解とご支援をよろしくお願いいたします。
アフガニスタン人道危機救援金
受付期間: 2021年9月22日(水)~2024年3月31日(日)
使 途: アフガニスタン赤新月社、国際赤十字・赤新月社連盟、赤十字国際委員会が実施する、被災者や国内避難民に対する食料や生活必需品の支援、医療サービスの提供、水・衛生促進などの救援活動を支援するために使われます。