海外たすけあい:故郷を追われる1億人。命をつなぐ支援を届けるために。

世界では紛争や騒乱、暴力の応酬が頻発しています。紛争や迫害、暴力などを理由として母国や故郷を離れざるを得なかった人びとは、2022年末には世界中で1億人を超えました2022UNHCR報告)。彼らの多くは私たちと同じ一般市民です。暴力から逃れ避難先に向かう間にも、難民・避難民の人びとは家族や友人、家や財産、生活の糧や健康など多くのものを失う危険にさらされます。また、避難先にたどり着いた後も、彼らを待ち受けるのは先の見えない長期の避難生活や、教育や就労、移動などの機会も制限される不安定な生活です。多くの困難に直面する難民・避難民の命をつなぐため、国際赤十字は世界各地で活動を行っています。本稿では、日本赤十字社(以下、日赤)の支援活動から危機的な状況におかれた難民・避難民の今をお伝えします。

中東人道危機救援

70年以上続くパレスチナ・イスラエル問題、2010年以降各地で続く散発的な武力衝突など、中東地域では度重なる人道危機によって多くの方々が不安定な情勢の中で暮らしています。日赤は2015年からレバノンに中東地域事務所を構え、人びとに寄り添えるよう現地の赤十字社、国際赤十字とともに長期的な支援に取り組んでいます。

◆医師や看護師に学びの場を ~医療技術支援~

パレスチナ赤新月社が運営する病院では移動の制限などにより、医療従事者が日々進化する医療技術を学ぶ機会が限られています。日赤は医療サービスの向上のために、レバノンとパレスチナ被占領地域ガザ地区の双方でパレスチナ赤新月社が運営する病院に医師・看護師を派遣し、医療技術支援を行っています。情勢の変化に伴い、現在事業を中断していますが、支援した知識や技術が現地に根付くよう見守っていきます。

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データの収集方法について現地スタッフ(右から二人目)と確認する日赤職員

◆難民や地域の脆弱な人びとの健康を支える~診療所の運営支援~

150万人にのぼるシリア難民やレバノンの脆弱な人びとの健康にとって、診療所の存在は欠かせません。利用者がより衛生的な環境でサービスを受けられるよう、日赤はレバノン赤十字社が所有する診療所の水・衛生設備を中心とした整備や運営支援を行っています。中東の人びとを現地で支援する日赤中東地域代表部の松永首席代表は次のように話します。

「例えばレバノンでは、人口1人当たりの難民受入れ数が世界で最も多く、5人に1人が難民です。また、レバノンは2019年から経済危機に陥り、それまでも困難だった就業がより困難になるなど、人びとは窮地に追い込まれています。その他にも内戦や民族、宗教等の問題を背景にした人道危機の中にある中東地域の人びとにとって、みなさんの関心や支援は欠かせないものです」

バングラデシュ南部避難民支援

2017年8月にミャンマー・ラカイン州で発生した暴力から逃れるため、隣国バングラデシュ南部に大量の避難民が流入してから6年。今なおミャンマーへの帰還は実現せず、現在も100万人弱(20236UNHCR)の人びとが支援に頼りながら、避難民キャンプ等で生活しています。

◆国際社会からの関心の低下。苦境に立たされる避難民

世界各地で災害や紛争が相次ぎ、国際社会からの関心が徐々に薄れる中で、食料支給額が段階的に引き下げられ、避難民の生活に直接的な影響を与えています。今後子どもの栄養不足が問題となることが懸念されています。また、狭く劣悪な衛生環境のため皮膚病やデング熱などの感染症の蔓延が見られるほか、キャンプ生活の制約や先の見えない不透明な状況が避難民の心に大きな負担を強いています。

◆困難の中でも支え合う避難民たち

日赤は、地元のバングラデシュ赤新月社と協働運営するキャンプ内の診療所において基本的な保健医療サービスを提供するほか、母子保健の改善、慢性疾患を含む疾病予防の取り組みを行っています。また、避難民ボランティアが家庭訪問や健康啓発活動などを行う地域保健活動、避難民の日々の不安を軽減し地域とのつながりの中で希望をもって暮らすための心理社会的支援(こころのケア)を続けています。避難民が安心で健康的な生活を送ることができる環境づくりを目指しています。

様々な困難を抱える避難民ですが、彼らを現地で支援する日赤バングラデシュ現地代表部の藤﨑首席代表は次のように語っています。

「今年3月のキャンプ内で発生した大火災では誰よりも早く避難民ボランティアが現場に駆け付け、率先して救援活動を行いました。彼らはコミュニティを守るという使命感のもと、自分たちの役割に誇りとやりがいを持っています。『避難民』とひとくくりにするのではなく、外からの支援に甘んずることなくコミュニティとともに困難に立ち向かう一人ひとりであることを知っていただければ幸いです」

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心理社会的支援の活動に参加する避難民の女の子たちと会話する藤﨑職員(左から二人目)

ウクライナ人道危機救援

2022年224日以降のロシア・ウクライナにおける国際的武力紛争によって、ウクライナの各地において戦闘が続いています。今日も武力紛争が終わる兆しがなく、日々多くの人びとが亡くなり、傷を負っています。また、この武力紛争によって、国内避難民が約367万人、国外への避難民が約624万人(202311IOMUNHCRによる推計)に上っていますが、遠く日本へ逃れてきたウクライナの人びともいます。避難先から住み慣れた場所へ帰る人がいる一方で、未だ帰れない人びとも多くいますが、彼らの暮らしは容易ではありません。

◆二度目の冬を迎えて。厳冬期支援によって避難民を支える

現在、国際赤十字の支援は、緊急支援から中長期支援の段階に向かっています。日赤は、ウクライナ赤十字社と協力して実施する二国間事業を中心として、資金拠出や要員派遣の支援を拡げてきました。また、今回の武力紛争以降、ウクライナは二度目の冬を迎えていますが、昨冬と同じく電力供給施設が攻撃されています。人びとが厳しい寒さにさらされるだけでなく、日々の生活にも大きな支障をもたらします。日赤は、生活必需品の提供、住居の提供を通じて、人びとが長く寒い冬を安心して過ごせるための支援も行なっています。

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特に戦闘が激しいウクライナ東部のハルキウ州でウクライナ赤十字社による衛生用品の配布 ©IFRC

ウクライナ西部の都市リヴィウを拠点にして支援を行なっている日赤ウクライナ現地代表部の樋野副代表は次のように話します。

「長引く避難生活を送る人びとからは、『故郷の農作物が恋しい』『帰りたい』と、郷愁に駆られる言葉も聞かれます。丸2年間、心安らかに過ごすことができない避難民を支えるのは、日本や世界からの彼らを思う気持ちです。」

おわりに

世界にネットワークをもつ赤十字は、避難を余儀なくされ、故郷を追われた人びとに対してあらゆる場所で広く手を差し伸べることができる存在です。多くの難民・避難民の問題の原因には様々な要素が絡み合い簡単に解決できないものばかりです。一方で彼らを長期的に支援するための国際社会の資金や資源は限られており、報道や世間の関心の差が支援の差につながる状況がより顕著となっています。赤十字は、紛争や騒乱、暴力の状況下においても敵味方の区別なく、目の前の苦しんでいる人の命と尊厳を守る人道支援を行います。現在の日本社会で難民・避難民が経験する多くの困難や心の傷を想像することは難しく感じるかもしれません。しかし、実際に私たちと同じ一般市民が難民・避難民となる中で様々なものを失い、先の見えない環境で日々生活しています。彼ら一人ひとりが尊重され、安全に暮らせる未来に向けて、彼らの「今」を継続的に支えていけるよう、ひとりでも多くの方に関心を寄せていただけたら幸いです。

日本赤十字社は202312月1日から25日まで、「NHK海外たすけあい」キャンペーンを実施しています。「NHK海外たすけあい」を通じて皆様からお寄せいただくご寄付は、これら難民・避難民のための継続的な支援のほか、世界各地で支援を必要とする人びとに届けられます。今年も皆様のご協力をよろしくお願いいたします。「NHK海外たすけあい」特設サイトでは、日本赤十字社の国際活動についてより詳しくご紹介しています。

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