現在、そして未来のリーダーを育て、支える国際赤十字の取り組み ~国際赤十字・赤新月社連盟への4年間の出向報告に代えて~
国際赤十字・赤新月社連盟(以下、連盟)では世界を4つの地域に分類しており、そのうち日本はアジア・大洋州地域に所属しています。同地域の連盟としての活動を管轄するアジア・大洋州地域事務所はマレーシアのクアラルンプールにあることをご存じでしょうか。
日本赤十字社の平井万理子職員は2020年から同事務所に出向し、ユースの活動促進の担当として4年間、38か国の赤十字・赤新月社を支える仕事をしてきました。今号では、「新型コロナウイルス感染症まん延の真っただ中で、どのようにユースを支えていくか、悩みながらのスタートでした」と語る平井職員の現地での取り組みを紹介します。
一人の女性ユースリーダーとの出会い
マレーシア赤新月社のユースボランティアのミシェルさんは、マレーシアの地方出身で、学校では赤新月クラブに所属し、卒業後はユースボランティアとしてコロナ対応や災害対応の最前線で地域に根差した活動に積極的に参加していました。
彼女は、2019年、19歳の時に連盟のユース委員会(*1)のアジア・大洋州地域代表に立候補し、ユースによる選挙を通じて代表に選ばれました。マレーシア赤新月社からの代表として立候補した時は、国際的に活動した経験もない状況でした。そのため、2020年当初は、ユースのグローバルオンライン会議で、ミシェルさんが意見を言うのは一番後、少し自信のない様子がうかがえました。
*1 ユースの声が赤十字・赤新月運動の意思決定機関に届くように、世界のユースを代表してユースに関連する連盟の活動について連盟の理事会に助言する役割を持つ。委員長と各地域を代表するメンバー合計9名で構成され、4年に一度、ユース代表者による選挙で選出される。
ユースの活動計画について協議するマレーシア赤新月社ユースメンバー
(2021年、手前の女性がミシェルさん)
ユースの活動を広げ、支える
私は、アジア・大洋州地域のユース活動を、「体制整備」と「能力強化」の2つの側面から支援する役割を担っていました。連盟職員という立場から、連盟ユース委員会のアジア・大洋州代表として活動するミシェルさんと、密に意見を交換しながら支援を進めていきました。
「体制整備」の一つが、アジア・大洋州のユースネットワークの再建でした。設立から10年以上経つこのネットワークは、その時々のニーズに合わせて形を変えてきましたが、2020年当時は活動が縮小していた状態でした。様々な国のユースたちと協議を重ねた結果、地域内のユース誰もが参加できる、開かれたつながりのネットワークを目指そうと決まりました。まずはネットワーク活動を推進する委員会の人員構成を、誰でも立候補できて選挙で選ばれるメンバーと、アジア・大洋州地域内の4つの地域(*2)から推薦されたメンバーの両方で構成するように変更しました。それにより、委員会内の地域バランスを維持したまま、普段はこのような国際的な活動の機会がない"新しいリーダー"を選挙で選ぶことができます。また、活動は誰でも参加ができることを基本とし、コロナ禍で主流であったオンラインイベントとSNSでのキャンペーンなどを中心として実施しました。
*2 アジア・大洋州地域内では、4つの準地域(東アジア・東南アジア・南アジア・大洋州)があり、それぞれの準地域でユースネットワークを組織している。
アジア・大洋州ユースネットワーク 連盟ユース委員会の会議(2024年)
身の回りの問題から変えていく ー ローカルソリューションの推進
コロナ禍が始まって、世の中が見えない恐怖と戦っている中、連盟は他のユース団体と協働で「若者は問題をつくる存在ではなく、解決する存在である」と掲げ、ユースの活動を支援するGlobal Youth Mobilisationキャンペーンを開始しました。
キャンペーン活動の一つが「リミットレス(Limitless)」という企画です。世界中の赤十字・赤新月ユースが誰でも、自分の周りにある課題を解決するためのアイデアを、1分間のビデオにまとめ申し込むことができます。選ばれたユースは、その初期段階のアイデアをプロジェクトに成長させるために、研修やコーチングを受けたり改良したりした後、少額の資金を支給され、プロジェクトを試行、改善し、インパクトを与えるものに作り上げていくというもので、総勢1,000名以上が参加しました。このプロジェクトは、ユースが自分の住む地域の問題に目を向け、解決策を考え、自分のできることからチャレンジしていくことを推進しています。
2021年のリミットレス・トップ10に選ばれたネパール赤十字社のユースボランティアのプラリシャさんの報告はこちらからご覧ください。
アジア・大洋州地域会議でのユースの活躍
2023年、アジア・大洋州の赤十字・赤新月社にとって意思決定の重要な場であるアジア・大洋州地域会議がベトナム・ハノイで開催されました。各国赤十字・赤新月社から社長や事務総長が参加する中、ユース代表たちが意思決定の機会に意味のある形で関われるよう、準備段階からサポートをしました。ミシェルさんは本会議へのユースの関与に関する委員会の一員として、前日に行われたユースフォーラムだけではなく、本会議でもユース参画の重要性をアピールしました。
本会議の中で、ミシェルさんが檀上に立って各社リーダーたちの前でユースからの報告を伝える機会がありました。彼女は「ユースは、今そしてこれからさらに大きな問題となる気候変動やそれに伴うメンタルヘルス不調を危惧しています。しかし、赤十字・赤新月社のユースはすでに行動を起こしており、希望も持っています。各社のリーダーの皆さんも、人道的課題の解決に向けて私たちと一緒に歩んでいきませんか」と堂々たる姿で訴えました。約3年間ミシェルさんとともにユースの推進に歩んできた私としては、アジア・大洋州地域の声を代弁するユースリーダーに成長した彼女の姿を見て、若者の無限の可能性を実感しました。
アジア・大洋州地域会議の檀上で発表するミシェルさん
次のリーダーを育てる
アジア・大洋州地域会議に参加した平井職員(左)とミシェルさん(右)
次の挑戦は、世界の様々な場所にすでに存在しているであろう現・次世代の"ミシェルさん"を発掘し、ユースのさらなる活動推進をしていくことだと感じます。ミシェルさんも、「様々な機会を通じて自分の中で自信が生まれ、今の役割の責任感をより強く感じている」と語っていました。誰もが機会を得て、誰もが活躍できる組織を目指し、多くのリーダーを育てることで、未来の赤十字運動を活性化させれば、それはひいては多くの苦しんでいる人を助けることにつながるのだと思います。さらなるユースの活躍のため、赤十字はともに歩み、支えていきます。