モンゴル ゾド対応:日赤から国際赤十字心理社会的支援コーディネーターを派遣および救援物資を寄贈
モンゴルでは、特に2015年以降、気候変動の影響で夏の干ばつとそれに続く厳しい冬が繰り返されており、「ゾド」と呼ばれる大寒波に伴う複合災害が頻繁に発生しています。
2023年の夏は当初雨に恵まれましたが、その後急激に気温が下がり、例年より早く雪が降りました。その後は急激な気温の上昇により雪解けが発生、続いて-40℃を下回る極寒の時期が12月後半まで続きました。このような要因が重なったことで、2023年から2024年にかけてのゾドは、国全体の12%にあたる790万頭もの家畜が死亡する(2024年6月現在、モンゴル当局発表)という深刻な被害をもたらしています。
モンゴル赤十字社(以下、モンゴル赤)は近年毎年のように起こっているゾドに備えて準備を進めていましたが、予想を上回る状況に対応が追い付かず、2024年3月に国際赤十字・赤新月社連盟(以下、連盟)を通じて緊急救援アピールを発出し国際社会に広く支援を呼びかけました。日本赤十字社(以下、日赤)は、500万円の資金援助に加え、衛生用品セットの寄贈を行ったほか、日赤医療センターの宮本教子国際医療救援課長を連盟の心理社会的支援緊急対応コーディネーターとして2カ月間派遣しました。
自然の驚異を受け入れながら過ごす遊牧民の人びと
特に厳しい今回のゾドに、モンゴルの人口の約30%を占める遊牧民の人びとはどのように対応してきたでしょうか。宮本さんは、7月上旬に首都ウランバートルから約500kmのモンゴル西部のアルハンガイ県と、1,000km離れたザブハン県の遊牧民の家族を訪れました。
「遊牧民の方々は、あまり自分の気持ちを外に出しません。外国人である私にはなおさらです。ゲル(※)に入るとまずどの家でもおもてなしを受け、お茶やお菓子をいただきます。しばらくして和やかな雰囲気になってから、少しずつ自分たちの生活の話をしてくださいました。一人ひとりのお話からは、気候的に厳しい地域に住んでいる人びとの、自然の驚異を受容しながら生きていくたくましさが感じられました。
※ゲル=モンゴルの遊牧民が暮らす移動式住居
『家族や親せき同士で困ったことがあったら助け合ってなんとかやれています』という声や、『天気の良い中、羊の世話をしていると落ち着いてきます』という声を聞く中で、自分たちの家族や親せきとのつながりはもちろん、家族同然の家畜の世話をすることが心の安定につながってくるのだと感じました。このような、自分たちがもともと持っているつながりや結びつきを生かして、厳しい状況に向き合っているのだと思います」と話す宮本さん。
それぞれの対処法(コーピング)を生かして今回のゾドにも対応していた遊牧民の人びとですが、家族のように、そして資産としても大切にしていた家畜が今年のような厳しいゾドの影響で亡くなってしまうことで、行き場のない悲しみや悔しさを抱えていたのも事実です。現地の国立精神保健センターの医師からも、モンゴル全体で見てもこの冬は慢性疲労や睡眠障害、不安障害、アルコール摂取増などのストレス反応を見せる方の数が増えているという話があり、今回のゾドが特に人びとの精神的負担にもつながっていたことがわかります。たとえゾドが最近「よくある」災害だとしても、人びとが今回のような想像を超えた災害に心理的にも備えていくこと、助け合える環境を少しでも増やしていくことは大切なことです。
活動の中で心理社会的支援の考え方を意識してもらうために
今回宮本さんは、そのような遊牧民の方々と日ごろからやり取りのあるモンゴル赤支部のスタッフやボランティアが、心理社会的支援を理解して今ある活動に生かすことができるよう、連盟の要請のもと、心理社会的支援の緊急対応コーディネーターという立場で派遣されました。
「モンゴル赤のスタッフと話していく中で、すでに彼らが行っている活動の中にどのように心理社会的支援の考え方を浸透させていくかということが大事であることがわかりました。そのため、まず支援をする人が知っておくべき、サイコロジカル・ファーストエイド(PFA)についての研修を行うことにしました。3日間の中で、PFAの基本、電話対応でのPFA、支部のスタッフが子どもに接するときの注意点などの要素を伝える研修を組み立てました。支援の心構えであるPFAについて理解してもらうことができたと思います。
6月中旬には、ザブハン県で洪水が発生し、この研修を受けた支部のボランティアが被災地に駆けつけたそうです。『あの研修を受けていたから、ストレスを抱える被災者にどう接すればいいのかわかっていたため、自信をもって対応することができた』と言ってくれたのが印象的でした。
支部のスタッフやボランティアを対象にPFAの研修を実施
また、モンゴル赤のザブハン支部では、ユースボランティアが、ユースとして遊牧民の方々にどんな支援ができるのかを考え、彼らにお手紙を書いたり、学校で使う文具を買うことが難しい家庭に対して寄付をしたりしています。『心理社会的支援』と名前がついていなくても、このような人びとの心に寄り添う活動は既に展開されています。そのような輪を広げていく中で、支援の心構えであるPFAを知っておくことは非常に意味があることだと思います」と彼女は活動をふり返りました。
日赤は、今回のゾド緊急対応と並行して、2024年4月から、モンゴル赤との3カ年の保健支援事業を開始しています。救急法講習の普及と心理社会的支援の体制づくりを進めることを目指しており、中長期的に、今回のゾドの被災地以外の地域での心理社会的支援の拡充にも力を入れてまいります。
日赤の備蓄物資から衛生用品セットの寄贈も
また、今回、日赤がマレーシアのクアラルンプールにある倉庫に備蓄している救援物資から、連盟を通じて衛生用品セット1,000個をモンゴル赤に寄贈しました。
すでに今回のゾド対応では、国際赤十字全体の支援として、遊牧民に対する現金給付やアニマルケアキット(家畜の栄養補給やひづめのケアなどのキット)の配付などの支援をしていますが、日赤からの衛生用品キットも、遊牧民の方々に配付され効果的に使っていただけるよう支援を進めてまいります。
衛生用品セットの輸送準備をする連盟職員(左はマレーシアに派遣中の日赤職員)
日赤は災害のリスクに直面するモンゴルにおいて、日赤の災害対応の経験、救急法や心理社会的支援等の知見を活用して、ゾドの緊急対応に加え中長期の保健支援事業を実施し、人びとのいのちと健康を守ってまいります。