台湾東部沖地震:被災地の今。繰り返される自然災害に対応できる組織・地域づくりを
4月3日に台湾の東部沖沿岸で発生したマグニチュード7.4の大地震から間もなく4か月が経過します。台湾東部の広範で観測した揺れは、18名の犠牲者と1,163名の負傷者、2名の行方不明者を生むなど、人的被害をもたらしたほか、震源地付近の花蓮県や台湾北部の新台北市の建物・自然にも大きなダメージを与えました。
大きく損壊した建物は既に解体され、飲食店やスーパーは平常通り営業し、当時の混乱は落ち着いているものの、街なかには政府が「居住不可」と評価し、赤札が貼られた建物が残るなど、未だ震災の痕跡が見受けられます。
花蓮県の市街地にて、「居住不可」の赤札が貼られたたまま残る建物
台湾赤十字組織(以下、台湾赤)は、震災直後の捜索・救助活動に始まり、被災者の生活再建、将来の災害に備えた復興支援を計画し順次実施しており、日本赤十字社(以下、日赤)は台湾赤のそれら活動を支援することを決定しています。
■深刻な建物被害を受けた被災者の生活再建を助ける引換券
発災から数か月が経ち、救援から中期的支援へと移行する中、台湾赤が今、力を入れている活動は「家庭用品の購入のための引換券の配付」です。
この支援は、政府が危険であると認定した建物被害を受けた被災世帯を対象に、彼らが安定した生活を取り戻し、新たな生活をスタートできるようサポートするため、家庭用品の購入のための引換券(各世帯 約14万円分)を配付するものです。この引換券により、各世帯が自分たちのニーズに応じて必要なものを購入でき、洗剤やトイレットペーパー、電球、文具といった日用品から、冷蔵庫、テレビなどの大型の電化製品、台所用品など、さまざまな家庭用品の購入が可能になります。
被災者に家庭用品の購入のための引換券を手渡す台湾赤の潘会長©TRCO
5月31日と7月18日~19日に実施された引換券配付では、建物被害が大きかった花蓮県と新台北市の計607世帯に引換券を配付。7月の配付時には、台湾赤の新会長に就任した潘維大会長も配付場所へ赴き、被災者のニーズや声に耳を傾けながら、引換券を手渡しました。家が倒壊し、今回の支援を受けた被災者からは「家も貯蓄も失ってしまいましたが、赤十字のおかげで米や食料品を買うことができている」と、感謝の声も上がっています。
■災害が多発する花蓮県。復興支援の焦点になる社会インフラ施設の建設
山と海に囲まれた豊かな自然を持つ花蓮県は、もとより自然災害も多発する地域です。
花蓮県北部に位置する2,000人ほどの人びとが住む和平村では、今回の地震そのものの被害にも見舞われましたが、揺れにより山の地盤が緩んだことで、その後の余震や大雨で土砂崩れが繰り返し発生。公共交通機関の乱れや住民の避難は現在も度々発生し、震災による二次災害が住民の生活を脅かしています。
花蓮県の移動中、電車から見られた土砂崩れの様子
和平村には設備が整った公共避難所がないことから、災害時に安心して身を寄せられる避難所のニーズが非常に高まっています。台湾赤は、今回の地震の復興支援の中心に「社会インフラ施設の建設/再建」を掲げており、花蓮県政府と共同で2つの建設/再建支援を進めることに合意しています。そのうちの1つとして、和平村の緊急避難所の建設が計画されています。
和平村役場にて支援への感謝状を受け取る台湾赤と日赤
和平村の緊急避難所の建設予定地視察
建物は2026年12月の完成を目指しており、完成後は災害時の緊急避難所としての役割だけではなく、平時には地域住民が文化的活動や研修の開催など多目的に使用できるコミュニティセンターとしても活用される予定です。
2つ目の建設支援として計画されているのは、花蓮県中部沿岸に位置する水璉消防署の再建です。
10年前に廃校になった中学校を利用していた同消防署は、4月3日の地震により建物の損壊被害を大きく受け、政府が危険と評価する建物に認定されました。外壁の損壊は30か所近く目視でき、壁の高さ3mまでひびが入る様子、床に敷き詰められたタイルが割れて浮いている様子など、強い揺れが水璉村を襲い、人びとの住環境に大きな影響を与えたことは簡単に想像できます。
損壊被害を受けた水璉消防署の訪問
高さ3mまでひびが入る壁
消防署の代わりになる建物がないため、現在も、地元の消防隊員はこの建物の中で働くことを余儀なくされていますが、安全性は決して保障できない状況です。また、もともと廃校になった中学校を利用していたことから、消防署としては設備も不十分で、今回の再建を機に、訓練できる環境を整えるなど、より安全で機能的な消防署の建設を計画しています。
これら2つの社会インフラ施設の建設/再建支援は、災害が頻発する花蓮県の災害対応能力の向上に繋がり、地元住民の生活を支えることが期待できます。
■いのちを救う台湾赤の災害救助ボランティアの存在
台湾赤には、救援活動の核を担う赤十字ボランティアの存在があります。今回の地震でも、花蓮県支部の災害救助ボランティアがいち早く被災現場に駆け付け、いのちを救う捜索・救助活動を行いました。台湾赤で20年以上ボランティアを行う林さんもその一員です。今回、副隊長としてチームを率いた林さんが当時の様子を教えてくれました。
台湾赤花蓮支部の災害救助ボランティア林さん(50歳)
「今回の地震はかなりの規模でした。過去の地震と比較すると人的な被害はそう大きくはありませんでしたが、環境や自然への影響は大きく、やはり自然の驚異には逆らえないことを痛感しました。地震発生直後、多くの人が建物や渓谷に閉じ込められ、迅速な救援活動が必要となりました。私たちは消防隊員の捜索・救助活動をサポートしましたが、活動中、私たち8名も渓谷に閉じ込められてしまい、大雨の中、泳いで脱出する経験をしました。今振り返ると非常に危険なミッションだったと感じています。私たちは普段から訓練に励んでいますが、訓練していない人たちが経験したと想像すると、もっと大きな危機に直面していたと思います。また、私自身は、ミッションを遂行するだけでなく、副隊長としてチームメンバーの安全を確保しなければなりませんでした。彼らにはそれぞれ家族があり、彼らの安全確保の責任も私にはあると感じています。」
台湾赤の花蓮県支部の災害救助ボランティアには現在32名が所属しています。普段は小学校の教員をしている人、自営業で家業を行う人など、それぞれの生活がある中、少なくとも月に一度は集まって訓練を行い、災害時には救援活動に尽力します。
水難事故、列車の脱線事故、地震や台風被害など、様々な現場を経験した林さんは救助ボランティアとして活動することについてこう感じているといいます。
「台湾赤の災害救助ボランティアとして24年間、300回以上のミッションに参加してきましたが、ボランティアの活動を通じて社会に貢献できていると感じています。仕事や私生活もある中ですが、自分ができる最大の支援をすることは、とても意義深いことです。」
台湾赤花蓮県支部にてロープを使って建物から下りる災害救助ボランティアの訓練を見学
「世界で災害が発生した時、多くの人びとが他国の支援をしたいと願いますが、自国の状況や災害対応がある中、全ての国や人びとが支援に動けるわけではありません。なので、できる限りの支援を届けてくれる日本の皆さんに深く感謝しています。本当にありがとうございます」と、日本の皆さんへの感謝の気持ちも語ってくれました。
花蓮の人びとを救いたいという思いを根源に持つボランティアの皆さん。日々訓練に励み、危険を覚悟のうえで、最前線で活動を続ける彼らからは、赤十字ボランティアとしての誇りと意思の強さが感じられます。
台湾赤は今回の震災の復興支援の一環として、「台湾赤の救護体制の強化、防災支援」を計画しており、救護車両や通信設備などの資材や装備の強化、訓練の実施等による災害対応能力の向上を目指しています。林さんのような、花蓮県支部の災害救助ボランティアを含め、台湾赤全体としての組織強化にも、日赤も引き続き支援を行っていきます。
■海外救援金へのご協力、誠にありがとうございました
日本赤十字社の「2024年台湾東部沖地震救援金」は2024年6月28日をもって受付を終了いたしました。たくさんの方々の温かなご支援、誠にありがとうございました。
皆さまからお寄せいただいた救援金は、台湾赤十字組織への資金援助を通じて、上記でお伝えしたような、救援・復興支援に活用され、被災地の人びとを支えていきます。
日本赤十字社はこれからも台湾赤との連携を密に行い、被災地のより良い復興をサポートしていきます。
台湾赤本社にて台湾赤の王前会長と台湾赤職員と日赤職員