ザンビアの干ばつ被害:危機に立ち向かう人びとを支える赤十字の支援

2023年7月に世界各地で始まった大規模なエルニーニョ現象の影響により、南部アフリカ地域で深刻な雨不足が発生し、今年2月には過去100年間で最も乾燥した月を記録しました。南部アフリカ地域の11カ国[1]では6月現在、3,480万人以上の人びとが、食料不足などによりIPCレベル[2]3以上の危機的状況にあると言われています。

こうした状況を踏まえ、国際赤十字・赤新月社連盟(以下、連盟)は、南部アフリカ地域の中でも特に被害の深刻なザンビア共和国とモザンビーク共和国を対象に緊急救援アピールを発出し、食料・生計、保健・栄養、水・衛生の3つの柱で支援活動を展開しています。日本赤十字社(以下、日赤)は資金援助をとおして活動を支援しています。

[1] アンゴラ、ボツワナ、エスワティニ、レソト、マダガスカル、マラウイ、モザンビーク、ナミビア、南アフリカ、ザンビア、ジンバブエ

[2] IPCレベルとは急性的な食料不安を示す指標で、レベル1:無し/最小、レベル2:ストレス、レベル3:危機、レベル4:緊急事態、レベル5:大災害 を示す。

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■ザンビアの国土の南半分が干ばつの被害にあう

1981年以来最も深刻な干ばつの被害を受け、今年2月29日にザンビア政府は非常事態宣言を発令しました。エルニーニョ現象と長引く乾季の影響で食料危機がさらに深刻となり、116のうち84州が被害を受けています。昨年末には大規模なコレラ感染症が発生し、衛生環境や安全な水へのアクセスなど、すでに多くの課題がある中で、干ばつにより水源が枯渇し、家畜の放牧や農業が困難となっています。気候変動に加えて不安定な世界情勢の影響も相まって、燃料費や肥料価格が値上がりし、食料価格も高騰しています。その結果、食料供給や生産が停滞し、660万人以上が緊急の人道支援を必要としています。

画像 (出典:連盟)

ザンビアで大多数を占める小規模農家は、自然の雨に依存した農業を行っています。水路やダムなど農業インフラが整備されていないからです。パトリシア・チヤさんもその一人、南部地域のマザブカ州で農業を営んでいます。多様な作物を植え、家族や近隣の人びとのため家庭菜園や果樹を栽培しています。今年は雨季がいつもより早く終わってしまったため、ほとんどの作物を収穫することができませんでした。

「ほとんどの作物が枯れてしまって、トウモロコシすら焼いて食べることができなくなってしまいました。干ばつが続いて雨が降らないと水位が下がるので、井戸から水をくむことができません。時には5分から10分ポンプを押し続けないと水が出てきません。無理矢理水を押し上げようとするので、ポンプの作動がとても重労働になりました。」

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干ばつの被害を受けたトウモロコシ畑(出典:連盟)

水へのアクセスが全体的に低下すると、人命が脅かされるだけでなく、水をくみに行く距離や時間が長くなります。女性や子どもの保護リスクが高まる恐れがあり、単身や思春期の女児は特に、暴力や搾取、虐待を受けやすくなります。

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マザブカ州の農家、パトリシア・チヤさん(出典:連盟)

■赤十字の緊急救援

ザンビア赤十字社(以下、ザンビア赤)は、連盟を通じた緊急救援により、特に被害の大きい南部地域の4州を中心に、現金の給付、気候変動に対応した農業の技術研修、農業資材や用具を提供するほか、特に支援を必要とする人びとの栄養モニタリング、健康や食料安全保障につながる水や衛生インフラの整備などを実施しています。

3万2,000世帯、16万人を対象とした緊急救援活動では、これまでに3,000世帯への現金給付が行われたほか、これから開始される5歳未満の栄養不良児支援や食料配布などの緊急救援活動を担うボランティアを養成するため、地域に根差した保健・救急法や社会的弱者の保護などに関するさまざまな研修を実施しました。これらの研修は、コミュニティが主体となって救援活動を実施することを促進し、緊急状態から脱した時に自らの力でコミュニティが立ち上がるのを、ボランティアが支えられるようにするためです。

■将来につながる継続的な支援

日赤は、今回の危機的な干ばつが顕在化する前から、南部アフリカ地域における保健・教育支援事業(南部アフリカ地域保健・教育支援事業)を支援しており、ザンビアはその対象国のひとつとなっています。事業では、エイズ孤児や貧困家庭の子どもが、偏見や差別に苦しむことなく、感染による負の影響を受けずに、自らの力で生活を切り開くことができるよう、保健、教育、経済、社会などの側面から包括的に支援しています。

救援物資の給付、現金支給、保健・栄養指導、水や衛生設備の整備は、緊急事態の時に命を救うために不可欠です。しかし、緊急援助は永遠に続けることはできません。日赤は、ザンビアの人びとが干ばつという危機的状況を乗り越えたあとを見据えて、今何をすべきか、人びとの将来を少しでも良くするために今できることを継続してまいります。

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