レバノン:慢性的な医薬品不足に苦しむパレスチナ社会

中東のレバノンでは、経済危機の影響から、医薬品を含むあらゆる物価の上昇が進んでいます。パレスチナ赤新月社レバノン支部(以下、パレスチナ赤レバノン支部)は、レバノンに暮らすパレスチナの人びとの医療を支える活動をしており、医療物資の確保は同支部にとって元々大きな課題でした。202310月に勃発したイスラエル・ガザ人道危機の影響でレバノン南部の国境付近での武力衝突が活発になった結果、医薬品の入手はますます困難となり、さらなる衝突拡大に備えて備蓄量を増やす必要に迫られました。この緊急対応として、パレスチナ赤レバノン支部では昨年から緊急医薬品の整備を開始し、日本赤十字社(以下、日赤)から1,000万円の資金援助により33種類の注射薬を含む78品目の医薬品と医療用品を購入し各病院へ配置することができました。

弱い立場の人びとが住む地域を支える病院

パレスチナ赤レバノン支部がレバノン国内で運営する5つの病院は、パレスチナ難民だけでなく、シリア難民、レバノンのホストコミュニティの人びとなど、レバノンで暮らす立場の弱い人びとに対して救急医療や一般入院医療サービスを提供しています。

基幹病院であるハムシャリ病院では、普段の診療・治療の薬品とは別に、今回支援を受けた緊急医薬品について有効期限管理をしながら保管しています。しかし、慢性的な医薬品不足により、今回購入した緊急用の医薬品も通常診療に使用せざるを得ない状況も見られます。

国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)は、パレスチナ人に医療、教育、食糧支援、緊急支援などを提供していますが、透析患者への支援は含まれていません。パレスチナ赤新月社が一手にその役割を担っていますが、資金不足から十分な透析液のストックができていません。透析患者は、通常週3回程度の通院が必要で、透析を受け続けないと命に関わりますが、緊急時にはこれらの人たちが危機にさらされることが予想されます。

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日赤中東地域代表部副代表(薬剤師)[左]と透析液は実質1日分のストックしかないと訴えるパレスチナ赤レバノン支部のハムード支部長(薬学博士)[右]

技術支援だけではない日赤との連携協力

ハムシャリ病院で事務長をしているファディ薬学博士は、次のように述べます。

「長年にわたる日赤との事業では、病院での医療の質の向上を目的に、スタッフの能力強化のための活動が救急外来等で行われてきました。非常に実用的で実り多いものでした。そして今回のような医薬品と医療用品の支援は、能力強化と同じくらい重要です。なぜなら、現在、医薬品のコストは驚くほど高く、他のパートナーからの財政支援が少ないため、医薬品の調達は常にパレスチナ赤レバノン支部にとって深刻な問題となっているからです。皆さんのサポートに感謝しています。日赤との協力関係がこれからも続くことを願っています」

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ハムシャリ病院事務長:ファディ薬学博士

日赤は、レバノン国内で弱い立場にある難民や地元住民への支援を継続していきます。

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