都市のリスクに立ち向かう:アーバンレジリエンスとは?

2024年7月2日から4日まで、韓国の首都ソウルで「都市のリスクに備える国際連携会議」が開かれました。会議は、国際赤十字・赤新月社連盟と大韓赤十字社等が主催し、33カ国の赤十字・赤新月社、国連機関、NGOなどから63人が参加しました。日本赤十字社からも職員1人が出席。世界各地の都市部の住民が直面する人道上のリスクと対応策、そして大規模災害などに備えた国際協力・連携のあり方について、活発な議論が行われました。

今号では、「都市のリスク」に対する赤十字の取り組みをご紹介します。

画像 都市には人やモノが集まり、活気にあふれる一方で、交通事故の多発や大気汚染など、 さまざまな問題を抱えている。©日本赤十字社

都市が抱えるさまざまな人道課題

赤十字の開発協力と言えば、農村部や山間部など、アクセスが困難な「へき地」における保健・衛生支援や、コミュニティでの防災活動などが思い浮かぶかもしれません。このような場所では公共インフラの整備が遅れ、また都市部に比べて経済的に困窮する人びとが多く、子ども達の栄養状態も良くありません。赤十字は「誰もが取り残されない支援」を目指して、特に弱い立場に置かれやすい人びとに寄り添い、自らの力で困難を乗り越えるための取り組みを行ってきました。

その一方、都市においても、人びとのいのちや健康を脅かすリスクが存在します。世界人口のおよそ57%が都市部に暮らし、一週間で140万人が新たに都市に流入していると言われます。このまま都市の巨大化が進むと、2050年には世界人口の3分の2が都市部に集中すると予測されています。

言うまでもなく、都市には政治・経済や産業、そして情報が集積し、仕事の機会やより良い生活を求めて多くの人びとが集まります。国民の多くが貧困に苦しむ国であっても、都市に限れば高層ビルが立ち並び、高級レストランが客を集める光景を見かけます。 
しかしながら、都市には人口が密集し、ひとたび災害が発生すると甚大な被害を生じることがあります。大地震や火災、洪水などの自然災害にとどまらず、新型コロナウイルス感染症まん延の際には、大都市での感染拡大に歯止めがかからず、多数の犠牲者を出した国もありました。

平時でも、都市はさまざまなリスクを抱えています。急激な人口の増加と経済発展は、慢性的な道路渋滞と交通事故の多発、大気汚染、水質の悪化、居住スペースの不足などを引き起こしています。経済格差が拡大し、いわゆる「スラム」と呼ばれるような場所に集まり、安全な水やトイレのない生活を強いられる人びともいます。さらに犯罪の増加、アルコールの過剰摂取や麻薬による健康被害も広がっています。
都市部では、一般的に地域のつながりが希薄であり、弱い立場にある人が特定されにくく、周囲からの援助を受けにくい傾向が見られます。また、さまざまな理由で住民登録のない移民など、本来受けられるべき公的サービスから除外されてしまう人びともいます。実際には、ここに挙げたさまざまな要因が複雑に絡み合い、都市のぜい弱性を高めていると言えましょう。

人道機関は今、都市の人びとが直面する課題に、真剣に向き合う必要に迫られているのです。

リスク軽減のポリシーを決議

2022年にスイス・ジュネーブで開催された「国際赤十字・赤新月社連盟総会」では、都市のリスクに立ち向かい、軽減するための決議が採択されました。この決議を通して、赤十字運動は都市の多様な人道リスクに目を向けた上で、政府や関係機関と連携し、人びとに必要な支援を提供するとともに、リスクを軽減するための取り組みを進めることを確認しました。

赤十字は、世界191の国と地域にネットワークを持ち、地域の隅々でボランティアが活動しています。その持てる力を生かして、主に4つの側面から都市の人道課題に取り組むこととしています。

  1. 都市の中で特に弱い立場に置かれた人びとの声を聞き取り、彼らが直面する人道問題を明らかにし、政府機関や民間企業などに課題解決のための協力・連携を呼びかけます。
  2. 各国の赤十字・赤新月社は、政府や行政機関などの役割を補完するため、公的な保健・防災計画などに沿って、必要な人道サービスを提供します。
  3. ボランティアや若年層の力を結集し、関係機関との連携、技術革新(イノベーション)、都市災害に関する専門的な知見を活用して、ともに課題に取り組みます。
  4. 都市のコミュニティがリスクに備え、立ち向かい、課題を解決するための具体的な取り組みを支援します。

画像 都市のリスク要因に関して各機関の代表が議論 ©日本赤十字社

世界の各都市で進む赤十字のアクション

一口にリスクと言っても、その内容や優先度は都市によって異なります。冒頭の会議では、各国の赤十字社が実施する草の根の取り組みが共有されました。

例えば、都市国家と呼ばれるシンガポールでは、高層マンションに単身で住む高齢者が多く、近隣から孤立するケースが見られます。そこで、シンガポール赤十字社は、「在宅見守りサービス」を開始しました。希望する住民に小型の端末を貸与し、困りごとが起きた際にボタンを押すと、訓練を受けたボランティアが24時間、いつでも相談に乗り、必要な支援を提供します。また、一定時間以上、動作が見られないとアラームが作動し、医療機関等と連携して対応にあたります。同社の活動は、高齢者の安心につながり、離れて暮らす家族からも頼りにされています。

画像 シンガポール赤十字社が行う 「在宅見守りサービス」 ©シンガポール赤十字社

ケニア共和国の首都・ナイロビには「スラム」と呼ばれる貧困層が居住するエリアがあります。住環境は劣悪で、人びとは感染症や災害のリスクが極めて高い状況に置かれています。ケニア赤十字社は、住民主体の防災、衛生改善、生計向上などの総合的な取り組みを支援し、人びとの健康と安全の向上に貢献しています。

トルコ共和国の都市部には、シリアなどから多くの難民・避難民が移住して来ましたが、彼らはトルコ語を話せず、周囲から孤立しています。トルコ赤新月社は、18の都市に「コミュニティセンター」を設置し、彼らが集う場を提供しました。センターでは、法律相談、保健医療・心理社会的支援、子ども達への教育支援、トルコ語教室、職業訓練など、多様なニーズに即したプログラムを実施し、一人ひとりがトルコの社会に適応し、自らの力で生活するためのサポートを行っています。

一方、日本赤十字社は、近い将来の発生が懸念される南海トラフ地震、首都直下地震などに備えて活動しています。

地震の被害想定は都市部においても甚大であることを受けて、東京都支部は、「東京大地震への備え」などのガイドブックを作成。オンライン上でも公開して、個人や家族でできる備えや、地震に遭った際にいのちを守る方法などを普及しています。また、東京都と区市町村が備蓄する生活必需品を補うために救援物資を整備するとともに、首都直下地震を想定した避難者数を考慮し、避難所の環境改善を目的に災害救援用の資機材の整備も進めています。

日本赤十字社東京都支部「家庭で減災対策」

都市の人道リスクは多様で、複雑であると言われます。赤十字は、どこにあっても「誰もが取り残されない支援」を実現するため、それぞれの地域や環境下での人道ニーズに基づき、地域の人びととともに、リスクに備え、軽減する取り組みを続けてまいります。

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