イスラエル・ガザ人道危機:武力衝突の激化から1年

2023年10月以降激化したイスラエルとガザの武力衝突から、202410月7日で1年が経過します。

当初から多くの一般市民が巻き込まれましたが、1年が経った現在もなお、人道状況は悪化の一途をたどっています。双方合わせて犠牲者は4万3,000人を超え、武力衝突終息の兆しは見えていません。

ガザ地区では人口の90%190万人が避難民となっており、人口の96%が深刻な食料危機に陥っています。また、イスラエルでは、101人の人質がいまだに解放されていません。

加えて、周辺国にも人道危機の影響が波及しており、イスラエル北部とレバノン南部における武力衝突やヨルダン川西岸地区での暴力行為も増加している状況となっています。

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2024年8月のガザの様子©ICRC

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2024年9月のイスラエル北部の様子©MDA

拡大する人道危機に対応する赤十字

武力紛争という厳しい状況の中、現在もなお、現地の赤十字社を中心に、目の前で苦しんでいる人びとの命と尊厳を守る活動が進められています。

パレスチナ赤新月社

パレスチナ赤新月社は、燃料の不足や停電が続くガザ地区で、負傷者の救急搬送や救命活動に、現在も24時間体制で対応しています。また、救援物資の配付や、ガザに多く住む子どもたちのこころのケア、ご遺体の搬送と埋葬などにも従事しています。

2024年9月に国連と世界保健機関(WHO)が主導したポリオのワクチンキャンペーンにはパレスチナ赤新月社も協力し、同社が運営するヘルスポストや病院で、子どもたちへのワクチン接種を支援しました。国連によると、このキャンペーンで合計56万人の子どもたちにワクチンが接種できたとのことです。

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パレスチナ赤新月社のヘルスポストでポリオのワクチン接種を実施©PRCS

また、2024年8月以降、ガザ地区のみならずヨルダン川西岸地区への攻撃も激化していることから、パレスチナ赤新月社は同地区での救援活動や避難支援を拡大しています。

パレスチナ赤新月社は、パレスチナ域外のパレスチナ難民を支援するために、難民キャンプのあるレバノンなどにも支部がありますが、レバノンで拡大する人道危機に対しても、救急医療活動を強化しています。

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ヨルダン川西岸のトゥルカム難民キャンプでの避難支援の様子©PRCS

イスラエル・ダビデの赤盾社

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テルアビブでの攻撃に際し救急車を出動©MDA

イスラエル・ダビデの赤盾社(イスラエルの赤十字社)は、本社に救急車のオペレーションセンターを持ち、現在も24時間体制で対応しています。

2024年8月以降はイスラエル北部への攻撃も増加していますが、攻撃が起こった際にはすぐさま現地に駆けつけて、負傷者の救急搬送などを実施しています。

また、血液事業にも関わっており、輸血のための献血者の受け入れ・採血・血液製剤の製造等も担っています。また、病院のNICU(新生児の集中治療室)にいる新生児などにむけて、母乳バンクの活動なども行っています。

赤十字国際委員会

赤十字国際委員会(ICRC)は、イスラエル・パレスチナ被占領地に、1967年から活動拠点を置き、中立的な仲介者と国際人道法の保護者としての役割を生かし、紛争当事者への直接の働きかけや、人質解放時の引き渡し支援などを行っています。

また、英語、アラビア語、ヘブライ語で対応できるホットラインを開設し、家族を探す人びとからの問い合わせを受け付けています。2024年7月末までに問い合わせのあった9,210件のうち2,560件については家族間での連絡がとれ解決することができました。

また、赤十字国際委員会は、日本赤十字社を含む12の赤十字社の協力をもって、2024年5月にガザ南部のラファに野外病院を設置しました。

開設から4か月間に、2万4,000件以上の診察を行い、1,200件以上の手術、147件の分娩を支援しました。右の写真は実際に野外病院で実施している手術の様子です。日本赤十字社からは手術室とリハビリテーションサービスのための資機材を一式寄贈しました。

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野外病院での手術の様子©ICRC

レバノン赤十字社

レバノン赤十字社は、過去の武力紛争の経験やデータに基づき、紛争激化当初から特にレバノン南部への危機の拡大に備えて救援物資の配備や緊急医療サービスの能力強化などを進めてきました。2024年9月17日から18日にかけてポケットベルや無線機などが爆発した際には、レバノン赤十字社は450人のボランティアと150台の救急車を出動させ、負傷者の搬送などの対応に当たりました。

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レバノン赤十字社の救急車の出動©LRCS

エジプト赤新月社・ヨルダン赤新月社

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ヨルダン赤新月社が救援物資を準備©JNRC

エジプト赤新月社やヨルダン赤新月社等周辺国の赤十字社はガザ域内への物資支援や避難民の支援等を実施しています。エジプト赤新月社は、ガザ域内のアルマワシとハンユニスにテントを設置し、避難民に滞在場所の提供を行っている他、ガザ域内の病院で治療が困難な負傷者を受け入れ、高次医療を提供しています。また、ヨルダン赤新月社は、2024年1月からヨルダン側からガザへの物資搬入が可能になったことから、物資輸送の拠点として機能しています。2024年3月から8月中旬までに176トンの救援物資を運ぶことができました。

国際赤十字・赤新月社連盟

国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)は、加盟社であるパレスチナ赤新月社、イスラエル・ダビデの赤盾社の両社の活動を支援する他、エジプト、ヨルダン、レバノン、シリアなどの近隣社の活動を支援しています。

日本赤十字社

日本赤十字社は、これまで皆さまから寄せられた海外救援金から、約2億円の資金援助や、上述のとおり野外病院のための医療資機材の寄贈などを実施しています。引き続き周辺国にも拡大する人道危機への対応を継続していくため、ICRCIFRCやパレスチナ赤新月社、レバノン赤十字社などに対して、日本赤十字社中東地域代表部等を通じて情報収集を進め、さらなる支援を行っていきます。

赤十字は武力紛争下でも、支援をあきらめない。

終わりの見えない武力紛争というたいへん厳しい状況の中においても、このように人道危機で影響を受けている地域で「苦しんでいる人びとの命と尊厳を守る」という活動が進められています。

悲しいことに、現在もなお、武力紛争に関係のない民間人が攻撃にあったり人質としてとらえられたりし続け、人びとの命や生活が脅かされている状況が続いています。

また、赤十字の活動も引き続き大きな影響を受けており、赤十字標章を付けた救急車や病院が攻撃の被害を受け、実際にイスラエル・ダビデの赤盾社では6人、パレスチナ赤新月社では21人のスタッフ・ボランティアが殉職しています。

このような状況が続けば、支援が必要な人に人道支援を届けることがますます難しくなってきます。

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攻撃の被害を受けたパレスチナ赤新月社の救急車©PRCS

この状況を打破するべく、赤十字は国際人道法の遵守についてSNSやメディアなどさまざまなチャネルを通じて訴え続けています。加えて、中立性を保ちながら、紛争当事者と対話を続ける「人道外交」を続けています。 

私たち赤十字の根幹である、苦しんでいる人びとの命と尊厳を守る活動、支援が続けられるよう、引き続き、皆さまのご理解とご支援をどうぞよろしくお願いいたします。

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「イスラエル・ガザ人道危機救援金」

受付期間: 2023年10月17日(火)~2025年3月31日(月) ※受付終了日が2024年9月30日から延長となりました。

使途  : 赤十字国際委員会(ICRC)、国際赤十字・赤新月社連盟、イスラエル・ダビデの赤盾社、パレスチナ赤新月社、日本赤十字社が行う救援・復興支援活動等に使用されます。※周辺国等に人道危機が波及した場合には、その対応を含む。