モンゴルでの技術支援:新潟・沖縄県支部の救急法指導員が現地を訪問

2024年9月、日本赤十字社(以下、日赤)新潟県支部と沖縄県支部で救急法講習の指導にあたる職員が、モンゴル赤十字社(以下、モンゴル赤)の保健支援事業 に対する救急法支援の一環でモンゴルを訪問しました。今回の出張では、救急法の普及に向けた技術支援やモニタリングを行い、現地職員やボランティアと課題や支援の方向性を議論しました。

モンゴルはどんな国?

画像 ゾドで被災した遊牧民の家庭を訪問するモンゴル赤職員©IFRC

モンゴルは広大な草原と厳しい自然環境が特徴で、特に冬季には「ゾド」と呼ばれる寒波、冷害が家畜や生活に深刻な影響を与えます。人口密度が世界一低く、地方では病気やケガの際にも医療機関へのアクセスが困難です。また、国を代表する産業である鉱業の採掘現場での事故に対する緊急対応の遅れも問題視されています。さらに、首都ウランバートルでは人口集中による交通事故が多発しています。これらに対応するため、モンゴル赤は地元の医療機関や消防と連携し、救急法の普及に力を入れています。

地方支部が抱える救急法普及の課題

救急法講習の普及を進める一方、全国に33ある支部が実施する救急法講習では、指導員の質や資機材の不足などの課題が残ります。今回、北部のブルガン県とオルホン県を訪問し、技術支援のニーズを調査しました。ウランバートルからの車移動は約8時間。
道中、モンゴルの壮大な自然が広がり、牛や馬、羊、ラクダ、鳥の群れが視界に入る一方、人の姿をほとんど見ることはありませんでした。
支部に到着すると、職員のみならずボランティアも駆けつけ、温かなおもてなしを受けました。そして、日赤からの出張者、モンゴル赤の事業担当者、モンゴル赤支部の救急法担当者を交え、救急法を普及する上での課題について率直な意見交換を行いました。

Image (2).jpg草原の先には羊の群れ©日本赤十字社

IMG_6054.jpgオルホン支部では日赤のCPR(心肺蘇生法)のデモンストレーションを披露©日本赤十字社

オルホン県支部ではユースボランティアを対象とした救急法講習を見学。限られたスペースを最大限に活用しながら指導が行われており、動画を用いて血液の流れを解説するなど、独自の工夫も見られました。しかし、参加人数に対して資機材や練習用のスペースが不足していたり、古いガイドラインが使用されているなど、普及の障害となっているさまざまな要因が浮かび上がりました。

救急法トレーニングセンターでのワークショップ

最終日には、モンゴル赤の本社にある救急法トレーニングセンターで、ウランバートル市内の7支部から救急法担当者が集まり、ワークショップを開催しました。この場で日赤からの出張者は、講習の受講生が手技をしっかり練習できる環境づくりの重要性や、資機材の適切な準備、最新のガイドラインの徹底を強調して伝えました。また、日本での地域ボランティアや学校との連携事例も紹介し、地域に救急法を根付かせるヒントを提供しました。

画像 日赤の救急法講習で使うテキストや救急法セットを紹介©日本赤十字社

その後、参加者は、グループに分かれて救急法の普及に関する課題や対策について議論しました。参加者の一人は、「日本のように、学校の保健の授業に救急法を取り入れたり、自動車教習所と協力することで、もっと救急法を広められるのではと感じました」とコメント。また、「資機材が充実すれば、受講者の実技練習がより充実するので、整備に力を入れていきたい」といった意見も寄せられました。

日本文化を通じた交流

今回の出張では、日赤の青少年赤十字メンバーが準備した特別な贈り物を届けました。日本文化を紹介する絵手紙や、日本の高校生活を紹介するアルバムがモンゴルのユースボランティアに贈られ、異文化交流の貴重な機会となりました。これをきっかけに、両国の若者同士が文化や生活の違いを学び、より深い交流へと発展していくことが期待されています。

IMG_5667 (2).JPGスフバートル支部ユースボランティアへアルバムの説明をする日赤職員©日本赤十字社

DFC59DFE-6086-4B6A-9594-4C05F29495B9.jpegダンスで歓迎してくれたソンギノハイルハン支部ユースのみなさん©日本赤十字社

今後の展望と出張者の声

新潟県支部から出張した井上卓 救護・講習係長は、「多くの課題を抱えながらも、現地の救急法から学ぶことが多くありました。例えば、救急法講習内での動画活用やこころのケアへの取り組み方、地元救急隊との共催による救急法大会などは日赤の災害救護や防災教育にも生かせるのではないかと感じました」と、出張を振り返りました。また、沖縄県支部の、井上稔之 事業推進係長も、「日赤で講師として長年指導をしてきましたが、この経験が国際貢献につなげられることを実感しました。モンゴル赤が国全体の保健衛生向上を目指し、広い視野で救急法に取り組む姿勢に感銘を受けました。今回、支援ニーズにかかる情報をたくさん持ち帰ってきたので、所属支部も巻き込みながら、モンゴル事業をさらに支えていきたいです」と話します。

モンゴル赤との3か年事業は、現在1年目の折り返しを迎えています。今回の調査結果をふまえ、資機材やガイドラインの整備など、技術支援を強化しながら、モンゴル全土での救急法普及に向けたさらなる取り組みを進める予定です。

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