女性活躍推進の立役者が赤十字運動の最高褒章を受章

 2024年10月、スイス・ジュネーブにて第34回赤十字・赤新月国際会議ほかが開催されました。世界中の191の赤十字・赤新月社、196のジュネーブ条約締約国政府、国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)、赤十字国際委員会(ICRC)が一堂に会し、人道課題について協議する貴重な場です。
 今回の会議では、個人を対象とした国際赤十字・赤新月運動における最高位の褒章である「アンリー・デュナン記章」が4人に授与されました。そのうちの一人が、女性のエンパワーメントに取り組んできたマルガレータ・ワールストロームさんです。

GLOW Redを代表して受章したワールストロームさん

 ワールストロームさんは、国際赤十字・赤新月運動(赤十字運動)における女性リーダーの活躍と育成を行う世界的ネットワーク「GLOW Red(グローレッド:Global Network for Women leaders in the Red Cross Red Crescent Movement、詳細はこちら)」の創設者で代表です。元スウェーデン赤十字社の社長として長年にわたる人道活動が評価されたのですが、ワールストロームさんはかねがね、「アンリー・デュナン記章はGLOW Redを代表して受章する」と明言していました。
 前回、2019年の第33回赤十字・赤新月国際会議では、「国際赤十字・赤新月運動の人道的活動における女性の役割とリーダーシップ」という決議が採択されています。この決議では、日本赤十字社を含む各国の赤十字・赤新月社、IFRCICRCが、「2030年まで意思決定機関や管理職などのあらゆるレベルで男女平等を達成する」としています。
 残念ながら、この決議の達成はまだ道半ばです。それでも、GLOW Redのように、赤十字の女性たち自らが立ち上がり、状況を変えていこうという動きがあります。今回の受章が、このような取り組みをさらに後押しする力となるに違いありません。

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アンリー・デュナン記章を受章したワールストロームさん ©IFRC

アンリー・デュナン記章とは?

 「アンリー・デュナン記章」は赤十字の父とされるスイス人、アンリー・デュナンの名を冠したものです。デュナンは第1回のノーベル平和賞受賞者でもありました。

 ワールストロームさんは受章式において、敵味方なく傷ついた人間を救うという赤十字思想が誕生した背景には名もなき女性たちの働きがあったことに触れました。デュナンの呼びかけで、165年前に、ソルフェリーノの戦いで傷ついた兵士たちを献身的に介抱したのは女性たちだったからです。ワールストロームさんはあえて「赤十字の女性たちはいつまで影の功労者に甘んじているのか」と訴え、赤十字の女性たちは意思決定の場でもっと活躍する必要がある、という強いメッセージを発信しました。

女性リーダーが必要な理由とは?

 なぜ、赤十字運動で女性のリーダーシップが必要なのでしょうか。
 それは単に「男女平等」を実現する、ということにとどまりません。赤十字が目指す人道の実現には女性の働きとリーダーシップが不可欠なのです。
 例えば、紛争や災害でより被害を受けるのは女性や子どもなど弱い立場に置かれている人々です。こうした人々のニーズに適切に対応するには、意思決定に女性が参加することが欠かせません。今回の国際会議でGLOW Redが主催したサイドイベントでも、この点に注目したディスカッションがありました。
 「明日を担う赤十字のリーダー」と題したパネルディスカッションでは、アフリカのある赤十字社の事務総長も務めた女性が、「女性が意思決定に参加しないと、被災者の満足度が低くなる」と発言しました。例えば、救援物資といえば毛布とキッチンセットばかりで生理用品がない、ミルクが届いても哺乳瓶がない、といったように、ニーズに即していない支援が一方的に行われがちだ、というのです。
 日本でも、災害のたびに、避難所で不便な生活を強いられる女性の避難者のことが話題となりますが、真に必要な支援を届けるためには女性を含む多様な視点が必要とされているのです。

画像 パネルディスカッションの様子 ©JRCS

現状維持ではダメ、「もっと意識を高めて!」

 ワールストロームさんは、受章スピーチを赤十字のリーダーに向けたメッセージで締めくくりました。
 「私は今日、ここにいらっしゃる全ての赤十字のリーダーにお願いしたい。もっと意識を高めてください。意識的に、女性や若い人々の活躍推進に取り組んでください。
 女性のリーダーを増やすためには、単に男女差別を撤廃するというだけでなく、意識的かつ具体的な取り組みが必要となります。赤十字運動や国連の要職を務め、また自国の赤十字社のトップを務めたワールストロームさんだからこそ発信できる、豊かな経験とゆるぎない信念に基づくスピーチは、女性だけでなく、その場の全ての人々の心を打つものでした。

画像 受章式でスピーチするワールストロームさん ©JRCS

大阪・関西万博にGLOW Redが参加

 GLOW Redは20259月、大阪・関西万博に出展される「ウーマンズ パビリオン in collaboration with Cartier」の「WA」スペースに参加します。組織における多様性の構築や人道危機における女性リーダーの役割についてシンポジウムを開催する予定です。詳細は追ってお知らせします。

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