南部アフリカ支援事業「地域保健と気候変動対策」 〜ナミビアとマラウイの子どもたちとともに〜

 日本赤十字社(以下、日赤)は2003年から、国際赤十字・赤新月社連盟(以下、連盟)をとおして、南部アフリカ地域のHIV/エイズにより孤児となった子どもたちやそのご家族を対象に、保健・衛生、教育をはじめ、地域のニーズに応じて、生計支援、防災など包括的な支援をしています。毎年ニーズの高い数カ国を対象とし、これまで計9カ国を支援しました。2024年からは対象国をエスワティニ王国、マラウイ共和国、ナミビア共和国、ザンビア共和国の4カ国にしぼり、3カ年の目標に沿って継続的に活動することで、より大きな成果を上げることをめざしています。
 現地には毎年、日赤と連盟の職員が赴き、活動のモニタリングをしています。今号では、2024年8月にマラウイとナミビアを訪問した日赤和歌山医療センターの小笠原看護師が現地の様子や課題について報告します。

■「大干ばつの被害に襲われても、子どもたちの未来を守りつづける」

 ナミビアの首都ウィンドフック、空港に降り立つと、茶色い静寂のアフリカの大地にオレンジ色の夕日が沈む光景が目の前に広がり、その美しさにしばし目を奪われました。翌日、首都から北へ6時間かけて事業地、グルートフォンテインに車で移動しました。道中は多少の草木はあるものの、どこまでも乾いた広大な大地が続いています。私たちが調査で現地入りしたのは2024年8月中旬。喉の変調と皮膚の乾燥に気づき調べてみると、湿度8%と表示されており、驚がくしたのを鮮明に覚えています。昨今世界各地で問題になっている気候変動の影響で、ナミビアは深刻な干ばつに直面しています。

 ナミビア赤十字社(以下、ナミビア赤)は日赤の支援を受け、OVC[1]と呼ばれる、エイズ孤児と社会的にぜい弱な子どもたちを支援する活動を実施しています。その一つに、キッズクラブという活動があります。キッズクラブは、ナミビア赤のグルートフォンテインの支部において週2回開催されており、周辺の学校に通うOVCの子どもたちが放課後になると集まってきます。日本でいう放課後児童クラブに近い役割でしょうか。

[1] OVCとは、Orphans and vulnerable childrenの略で、エイズで親を失ったり、自身もHIVに感染している子どもや、それ故に困難な家庭、社会環境にある子どもたちをさす。

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「子どもの権利条約」について、発表をするキッズクラブのメンバーたち ©JRCS

 「キッズクラブに参加するとボランティアが宿題を手伝ってくれる」、「ここに来るとみんなが助けてくれる」、「学校のように、ライフスキルなどいろいろなことを学ぶ機会があるので、大好き」と、オラヴィ君とジェレミア君は話してくれました。

 キッズクラブはOVCの子どもたちにとって大切な居場所となっており、仲間と共に学び、遊ぶことで子どもたち同士の交流が生まれ、友情が育まれます。この活動は、社会的に差別を受けやすい彼らの心のケアにとどまらず、将来この地域においてHIVやエイズへの偏見や差別がなくなるきっかけになることが期待されています。

 安全な水、教育、栄養、予防接種、病院へのアクセスなど、まだまだ子どもたちを取り巻く課題は多く残っていますが、ナミビア赤は、地元の政府とも協力しながら、地域にねざした支部と赤十字ボランティアと共に少しずつ着実に活動を進めています。

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「キッズクラブに来るのが楽しみ」と話してくれたオラヴィ君とジェレミア君 ©JRCS

■将来の夢は、「看護師になること」

 マラウイは世界の最貧国の一つです。この国では貧困が原因で、多くの子どもが学校を続けられない状況にあります。義務教育が当たり前の日本とは異なり、1学期につき約20ドル(日本円で3,000円)が必要になります。マラウイは3学期制なので、1年間で少なくとも9,000円が必要です。

 学校に通うといっても、日本のように公共交通機関はありません。生徒たちは片道何キロも徒歩で通学するのが当たり前です。通学途中で日が落ちてしまうととても危険です。学生が素泊まりできる簡易の安宿もありますが、特に女子生徒への暴行被害も多く、それが理由で子どもを学校に行かせない親もいるそうです。こうした困難な状況ではあるものの、子どもたちが教育を受ける機会を少しでも増やすべくマラウイ赤十字社は、日赤の支援で奨学金の提供を行っています。

 ロンリーさんは、片道17キロの道のりを毎日歩いて通学します。雨の日も風の日も毎日です。家に帰ると、兄弟の世話もしなければなりません。彼女に、「なぜ学校に通いたいのか」と尋ねると、「将来、看護師になってみんなを助けたい」と少し照れながら教えてくれました。その澄んだまなざしは忘れられません。奨学金の支援を受けている今、彼女は未来の夢に向かって努力を続けています。彼女の夢の種が芽吹き、近い将来に花が咲くことを応援しています。

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看護師を目指して頑張っているロンリーさん ©JRCS

■日本の皆さまの思いを現地へ

 今回の訪問では、多くの事業成果や活動の様子を確認することができました。この事業の実施を支えている活動資金、それは日本の皆さま、お一人お一人からお預かりした大切な寄付によるものです。ナミビアとマラウイを訪問した際、そのことを現地のスタッフ、ボランティアや住民にお伝えしました。そのことを知った現地の人たちはたいへん驚かれていました。「遠い日本に住む人たちが、アフリカの村に住んでいる自分たちを支えてくれている」ことに感激し、日本からの支援に心から感謝されていました。
 今後も日赤は、日本の皆さまの「助けたい」と思う温かい心を、現地の赤十字社と共に、アフリカで暮らす子どもたちや人びとに届け続けます。

画像 マラウイの村の共同水栓で水くみを体験する小笠原看護師 ©JRCS

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