【NHK海外たすけあい】ルワンダ:未来を変える希望と力
東アフリカの赤道近くに位置するルワンダ共和国。その首都キガリから遠く離れたブルンジ国境近くの村々で、日本赤十字社(日赤)が支援する「レジリエンス強化事業(モデルビレッジプロジェクト)」が行われています。現地のルワンダ赤十字社(ルワンダ赤)が「この地域への支援は非常に困難」と感じるほどに、貧困、食料不足、感染症、災害などのさまざまな人道課題が絡み合い、ひとびとは当初、外部からの一過性の支援に懐疑的でした。
2019年にルワンダ赤と日赤が協働して開始した事業では、まずは住民や地元行政機関との信頼の構築から始まり、やがて住民から選出されたボランティアや住民組織が中心となって、困難に負けない強い村づくりへと発展してきました。今年の4月には待望の給水設備が完成。村の環境は少しずつ改善し、ひとびとは大きな希望をもって、取り組みを進めています。
本事業は2025年6月で終了することから、今後の地域での取り組み、さらには新たに始まる学校での取り組み(青少年赤十字海外支援事業)に向けた話し合いが始まりました。その調査と協議のため、本年11月中旬に日赤国際部職員とともに、日赤埼玉県支部の記野職員と鳥取県岩美南小学校の石名校長先生が事業地を訪れました。その2人から、現地の状況と今後の支援についてお伝えします。
■ ボランティアの力を集めて:プロジェクトの成果とこれから
事業地であるギサガラ郡は、多くの家庭が国際的な貧困ライン以下の生活(一日2.15米ドルで、これ以下は日々の生活に極度に困窮するとされる)を送っています。道中、近代的なビルも建つ首都キガリから南部の町フイエへ。そこから、ガタガタ道を車で1時間かけてギザガラに到着。ギサガラに近づくにつれて、土のレンガでできた小さな家が多くなり、都市部と農村部の経済格差を実感します。通りがかるひとびとが頭の上に食べ物や荷物を乗せて運んでいて、手を振ると笑顔で返してくれるのが印象的でした。初めて村に訪れた日は、雲一つない青空。赤色の土の地面で、緑色のバナナの木が生い茂り、日本にはない色のコントラストが美しい大自然が広がっていました。
日赤が支援する「モデルビレッジプロジェクト」は、ギサガラ郡の奥地、急斜面に広がる5つの村(人口 約3,800人)で実施されています。これまでに保健(マラリア予防や栄養指導)、水と衛生(給水設備やトイレの設置)、生計向上(家畜の配布、共同貯金と小規模貸付)、環境改善(植林)など、多岐にわたる活動を行ってきました。今回は、これらの実績を現地で確認し、住民たちの声や今後の課題を確認しました。
最も顕著な変化は、村に水道が通ったことです。かつては、谷底の取水口まで重いタンクを持って水くみをしていたものが、住居の近くに9カ所の給水設備が完成し、水を得るために費やす時間と労力が大幅に軽減しました。水くみの重労働は、主に女性や幼い子どもたちの仕事でしたが、この作業から解放された子どもたちが学校に通えるようになるなど、生活全般が変化しました。飲み水の確保は言うまでもなく、菜園や家畜の世話、手洗いや洗濯、そして掃除のためにも水は必須です。日本では当たり前に使っている水が、私たちの生活にどれほど重要であるか、改めて認識させられました。
村に設置された給水設備がひとびとの暮らしを変えた
さて、こうした活動の担い手は、各村に10人ずついる赤十字ボランティアです。彼らはこの村の住民ですので、周囲のひとびとの困難や課題をよく知り、そして傍らに寄り添いながら、ひとびとの生活をサポートしています。私たちが村を訪れると、ボランティア50人が全員集まってくださり、パワフルなダンスの歓迎を受けました。
現地では、目にみえにくい成果も確認しました。1つ目は、住民から現地の赤十字スタッフやボランティアへの信頼感です。村に到着すると、住民が笑顔で出迎え、初めて会った私たちにも、自宅の敷地にあるトイレや家畜、家庭菜園の様子を喜んで見せてくださいました。この信頼が活動の源であり、今後、さらに危機に強い村づくりを進めるための鍵となるでしょう。
2つ目は、「困っている人を救う・助ける」という気持ちは、世界共通だということです。ルワンダの村では、今日も、住民の暮らしを守り、豊かにするために、ボランティアが活動しています。そして日本でも、地域の赤十字奉仕団が、災害に備えた炊き出し訓練、子ども食堂や一人暮らしの高齢者訪問など、その地域ニーズに合わせた活動を担っています。私たちの身近でも、災害や少子高齢化社会に関する活動など、より良い暮らしのために奉仕団が活躍しています。このように、ボランティアたちが、困っている相手の気持ちに寄り添って、その解決のために活動する様子からは、ルワンダも日本も同じ赤十字の気持ちで繋がっていることを感じました。
<現地のひとびとの声>
デニーズさん(ルワンダ赤十字社 地域ボランティア)
私は幼い時に両親を亡くし、孤児でした。とても悲しい思いをしていましたが、赤十字が里親を紹介し、私を助けてくれました。今度は、私が誰かを助けたいと思い、ボランティア活動を始めました。私は、赤十字の人道の考え方をいつも大切にしています。
このプロジェクトでは、衛生状態を向上させるために、保健知識やトイレの普及に力を入れました。また、家庭菜園を村に広めて、野菜の作り方をレクチャーしています。私たちの活動を通して、日々の暮らしが豊かになってきていると感じています。
クラウディーンさん(給水設備を管理する住民)
私は新しく出来た給水設備の管理をしています。決まった時間に給水設備の鍵を外し、住民から使用料を受け取る役割です。村に給水設備が出来たことで、子どもたちが遠い場所に水くみをしに行かなくても済むようになりました。以前は2時間かけて水くみをする子どももいて、体力的にとてもつらく、学校に遅刻したり休んだりしていました。
今は家の近くに給水設備が出来たので、水くみが終わったらすぐに学校に行けます。そして、家の中や子どもたちの身体が清潔に保てるようになり、衛生状態が改善したと実感しています。
栄養教室で子どもたちに食事を配る赤十字ボランティア
ルワンダでは、「Croix Rouge!」(赤十字!)、「Ku isi hose!」(みんな一つ!)と声をそろえ、パンッ!と軽快に両手を打ち、気持ちを一つにして活動しています。この事業は残り半年で終わりますが、現在、新たな村での活動について、話し合いを始めています。ひとびとの貧困が一朝一夕で解決するものではありませんが、地道な支援を継続することで、大きな力となることを信じています。
【日赤埼玉県支部 記野】
■子どもたちの輝くまなざしに触れて:学校での新たな取り組み
私は、鳥取県の山あいにある岩美南小学校の校長をしております。これまでの教員歴は34年になります。本年7月より青少年赤十字全国指導者協議会の会長職を務めることとなり、児童・生徒たちの「国際理解・親善」を促進するための新たなプロジェクト作りのために、ルワンダを訪問しました。
この事業は、ギサガラ郡の小中学校等8校を対象に、赤十字クラブの生徒たちが主体となって保健・衛生知識の向上やたすけあいの精神を普及することにあります。また、トイレの整備など、教育環境の改善にも取り組む予定となっています。
今回は、うち2つの学校を訪問し、校長先生などに聞き取りをしながら、校内の様子を見させていただきました。山を背景に立つ校舎は鳥取の自校を思い起こしましたが、薄暗い教室は100人近くの子どもたちですし詰め状態。教科書は数十人に1冊しかありません。校長先生からは、今でも途中から学校に来なくなる生徒がいることや、教員の数や質が課題であることを伺いました。
国際理解を深めるため、いずれの学校でも、教室で簡単な日本語を教えました。子どもたちの学びに向かう時のギラギラとしたまなざしは、日本ではなかなか感じられないなあと感心し、教えることの尊さを改めて実感しました。このことは、日本の先生がたに伝えていきたいと思います。
マギー小学校では、特別に給食をいただく機会に恵まれました。薄い塩味の煮豆をご飯にのせただけの質素なものです。私の口には合い、子どもたちと肩を並べて笑顔で食べたことは一生忘れられない経験となりました。ただ、十分な栄養は確保されていません。子どもたちの姿を見ていると脚が細く、栄養状態が良くないことは容易に想像できます。給食への支援も必要であると感じました。
どちらの学校でもトイレの現状を確認しました。衛生状況が思わしくないため感染症の拡大などが懸念されるそうです。また、児童生徒数に応じた数が絶対的に不足しており、早急な対策が必要であると痛感しました。
マギー小学校で日本語を教える石名先生
元気いっぱいの子どもたちと記野職員
次に訪れたルニニャ中学校では、子どもたちが好きなこととして、ファーストエイド講習をあげていました。生活に余裕がない中でも人道の精神が子どもたちに根づいていることに感銘を受けました。一方でその練習キットや、練習の機会がないようでしたので、救急法の支援についても検討する必要があります。
今後、青少年赤十字加盟校としては、ルワンダの新たなプロジェクトに参加して、子どもたちの健やかな成長と学びを止めないためのご支援をいただけるように1円玉募金の取り組みをさらに強化したいと思います。また、ルワンダの子どもたちの様子を日本の加盟校に還元することで、さまざまな気づきと学びを得てほしいと考えます。
【岩美町立岩美南小学校長 石名】
■世界に広がる「たすけあい」の仕組みづくり
ルワンダでの活動は、主に「NHK海外たすけあい」を通じて皆さまからお寄せいただいたご支援により実施しています。また、日本の企業から本事業のために寄せられた寄付金も大切な活動財源です。
日本からお届けする「たすけあい」の気持ちは、活動を通してルワンダのひとびとに伝わり、現地の村に相互扶助の仕組みが作られ、新たな「たすけあい」の輪が広がっていきます。お互いが支え合い、誰もが取り残されない社会をつくること。それが世界にまん延する暴力や争いの抑止につながると、私たちは信じています。
皆さまからの温かいご支援を、どうぞよろしくお願いいたします。