【NHK海外たすけあい】避難民の大規模流入から7年。活動初期から支えるバングラデシュ赤新月社スタッフの想い

日本赤十字社(以下、日赤)は、2017年8月25日にミャンマー・ラカイン州で発生した暴力から逃れ、隣国バングラデシュへ避難してきた人びとの命と健康、尊厳を守るため、2017年9月からバングラデシュ赤新月社と共に保健医療を中心とした支援を続けています。同年12月に開設した仮設診療所は、今月で7年が経過しました。
現在は、バングラデシュ赤新月社が主体となり、診療所における保健医療サービスの提供や地域でのボランティア活動を通して、避難生活の長期化に伴い増加傾向にある慢性疾患への対応や母子保健の改善、感染症対策などに重点を置いた取り組みを行っています。

避難民コミュニティの日々の生活を支えているのは、バングラデシュ赤新月社のスタッフとボランティアたちです。
今回、現地で活動する秋田拓之(あきたひろゆき)地域保健要員(鳥取赤十字病院)が、共に働くスタッフに行ったインタビューをご紹介します(2024年10月実施)。

画像 世帯訪問を行うボランティアと秋田要員©JRCS

*バングラデシュ南部避難民保健医療支援事業は、「NHK海外たすけあい」への皆さまからの寄付によって実施されています。
*国際赤十字では、政治的・民族的背景および避難されている方々の多様性に配慮し、『ロヒンギャ』という表現を使用しないこととしています。

■バングラデシュ赤新月社の活動を初期から支えるスタッフ

キャンプ12の診療所マネージャー ミロン医師

避難民キャンプや避難民は最近どのような様子ですか?
診療所のあるキャンプ12は、他のキャンプと比べると安全ですが、キャンプ全体を見ると決して治安が安定しているとは言えません。特に夜になると治安は一層不安定になり、避難民はおびえて生活しています。誘拐や人身売買も起こっている状況です。
診療所では、上気道炎や疥癬(かいせん)[1]などの皮膚疾患をよく診察します。デング熱やコレラなどの症例数も多いです。また、糖尿病や高血圧といった慢性疾患を抱える避難民も多くいます。

[1] 上気道炎はウイルス感染によるかぜ症候群で、鼻水、鼻づまり、せきなどの症状が現れます。疥癬はヒゼンダニが皮膚に寄生してかゆみや湿疹を引き起こす感染症です。

IMG_2590.jpeg診療所マネージャー ミロン医師©JRCS

避難民の流入から7年が経過し、避難民のニーズには変化がありましたか?
避難民のニーズは変わらないのですが、避難民流入から7年が経過し、世間の注目が集まりにくくなり支援が減っています。以前は避難民一人あたりの毎月の食料支援は12ドルでしたが、昨年には8ドルに引き下げられたこともありました[2]
医師という立場では、食料や生活費などのニーズを満たすことは難しいですが、診療の幅を広げることで、人びとのニーズに応えることはできると思います。避難民キャンプ内の医療施設は限られているため、私たちが提供できる医療サービスのレベルを上げることで役立つことができると思います。

[2] 2023年は深刻な資金不足により、一人あたりの毎月の食料支援額が削減されました。バングラデシュの主食は米で、魚や野菜、豆のカレーなどを副菜とするのが一般的です。8ドルでは生活に必要な最低限の食材の購入でも困難でした。2024年8月には毎月12.5ドルへ増額されました。(20241027WFPプレスリリース:https://bangladesh.un.org/en/282107-wfps-rohingya-response-receives-major-funding-boost-united-states

IMG_2624.jpeg©JRCS

バングラデシュ赤新月社だからこそできる活動は何ですか?
バングラデシュ赤新月社は、診療所、病院などの施設を複数運営しており、慢性疾患の診察や感染症対策だけでなく、母子保健や家族計画、ワクチンの提供など多岐にわたって行っています。また、CBHFA(※)チームが医療施設と連携しており、慢性疾患を抱える方や妊婦さんなど、自分一人では受診することが難しかった人をCBHFAチームが医療施設へ紹介し、治療につなげるケースが多く、バングラデシュ赤新月社ならではの連携だと思います。
また、長期化に伴いストレスを抱える避難民が増えてきており、PSS(心理社会的支援)チームがPFA(心理的応急処置)や専門施設への紹介を行うことで、人びとのニーズにも応えることができます。

(※)CBHFA活動とは?
CBHFA(Community Based Health and First Aid)という国際赤十字の手法を用いて、対象地域でボランティアを育成し、彼らが草の根で行う家庭訪問や健康啓発活動を通して、住民に疾病予防や健康増進、応急手当に関する知識の普及などを行う活動です。

CBHFA活動スタッフ ミナさん

避難民キャンプや避難民は最近どのような様子ですか?
流入当初と比較すると、以前に比べて避難民の行動様式は変化してきています。例えば排せつ後に手洗いをし、三大栄養素に考慮した食事を取るようになってきています。また、家族計画では皮下インプラント(避妊方法の一種)の使用なども少しずつ普及してきています。しかし、これらの変化はあくまで一例であり、人びとの行動変容は現在も改善段階にあります。

避難民の流入から7年が経過し、避難民のニーズには変化がありましたか?
大規模流入当初は住居や食料など生きるための基本的ニーズが高かったですが、現在はよりよい生活を求めて、尊厳や教育などのニーズが高まっており、機会があれば高度な教育を受けたいという声も聞きます。

IMG_2658.jpegCBHFA活動スタッフ ミナさん©JRCS

IMG_5884.JPGミナさんと打合せをする秋田要員©JRCS

バングラデシュ赤新月社だからこそできる活動は何ですか?
私たちは「誰一人取り残さない」という理念のもと活動しています。避難民は周囲からの支援がなければ生きていけません。活動の中でぜい弱な人びとを見かけたとき、必ず赤十字7原則のもと支援しています。こういった立場の弱い人びとに支援の手を差し伸べることこそが、バングラデシュ赤新月社の活動です。

■国際援助が減少する中、避難民は100万人を超える

大量流入が発生した2017年末時点では、以前からの避難民と合わせて、避難民キャンプには約80万人が暮らしていました。その数は徐々に増え、2018年には90万人に上り、202411月末時点では100万人(UNHCR発表[3])を超えています。
避難民キャンプでは毎年3万人の新しい命が誕生しており、キャンプで暮らす人口は増加の一途をたどっています。人道支援のニーズは年々高まる一方で、月日が流れるにつれて報道は減少し、国際的な援助も減少傾向にあります。本危機はさらに長期化することが予想されており、支援活動も長期的な視点で持続的に行っていく必要があります。

[3] Joint Government of Bangladesh - UNHCR Population Factsheet as of October 2024:https://data.unhcr.org/en/documents/download/112379

画像 大量の避難民を受け入れるため切り開かれたコックスバザールの森林保護区には、 7年が経過する今も簡易住居が一面に広がり、当時の記憶として1本の木が立ち残っている。©IFRC

アジア最大の人道危機ともいわれるこの状況に対し、国際赤十字・赤新月社連盟は8回目の緊急救援アピール改訂を行い、支援期間を202712月まで延長し、国際社会へ広く支援を呼びかけています。

日本赤十字社はバングラデシュ赤新月社と協力して、最も弱い立場に置かれた人びとに支援の手を差し伸べるため、活動を続けていきます。引き続き、バングラデシュ南部避難民支援事業へご関心をお寄せいただくとともに、「NHK海外たすけあい」へのご協力をよろしくお願いいたします。

20241223-54846d078946e3758b0d66c2d0f0ccea6188d8ae.jpg©IFRC

*日赤のバングラデシュ南部避難民支援に関するこれまでの活動もこちらからぜひご覧ください。

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