2024年度の国際活動を振り返って ~総括編 第3号 武力紛争に伴う難民・避難民などへの対応~
世界各地では、絶え間なく自然災害や武力紛争による人道危機が発生し、日々、人びとのいのちや健康、尊厳を脅かしています。2024年度はいまだ終息の見えないロシア・ウクライナの武力紛争に加え、イスラエル・ガザの武力紛争が周辺地域へ波及し、レバノンを含む中東地域における人道状況がさらに深刻化する年となりました。またこれらの人為的な災害に加え、気候変動の影響によるサイクロン、洪水、干ばつといった自然災害も世界各地で多くの命や人びとの暮らしを奪いました。
日本赤十字社(以下、日赤)の国際救援は、赤十字の世界的ネットワークや緊急対応の仕組みのもと、保健医療・衣食住などを即時に支える緊急支援から、復興フェーズを見据えて現地赤十字・赤新月社を支える支援など、その形はさまざまです。2024年度も、海外救援金などの財源をもとに、現地で必要とされる支援、状況に合わせた国際救援を展開し、世界各地で苦しむ人びとに支援を届けてきました。
ウクライナ人道危機救援事業
ロシア・ウクライナの国際武力紛争が激化して3年がたちました。しかし、各地での戦闘はやむことがなく、今も多くの人びとが亡くなっています。教育施設、医療施設、インフラ施設も攻撃を受けており、甚大な被害をもたらしています。人びとの命を脅かし続ける武力紛争によって、今なお1,000万人以上が国内外で避難を続けており、また約1,270万人が人道支援を必要としています。日赤は、国際赤十字・赤新月社連盟(以下、連盟)、赤十字国際委員会(以下、ICRC)、またウクライナ赤十字社(以下、ウクライナ赤)を含む各国赤十字社と共に、これら困難な状況に置かれている人びとに対して支援を続けてきました。これまでに国際赤十字は、ウクライナとその周辺国において、約2,200万人の人びとに支援を行ってきました。
ウクライナとその周辺国における国際赤十字の支援実績
物資など基本的支援 約2,090万人 |
保健医療支援 約279万人 |
水・衛生支援 約149万人 |
保護活動 約85万人 |
避難・移動支援 約174 万人 |
現金給付支援 約297万人 |
スクロールできます
多くの方々のご協力により、2024年12月31日現在で96億1,809万1,810円の海外救援金をお寄せいただいています。日赤はこれまで、この救援金から連盟とICRCに対して、避難地域および紛争地域で実施する救援活動のために約50億円の資金援助を行いました。また、残りの約46億円で、日赤とウクライナ赤との間の二国間事業を進めています。2024年には、新しい事業として、訪問リハビリテーション事業(イヴァノ=フランキウスク州)と緊急対応チーム支援事業(ザカルパッチャ州とイヴァノ=フランキウスク州)を開始し、日赤からの国際要員の派遣を通じた技術支援も行っています。2025年2月には、この人道危機に対する、これまでの日赤と国際赤十字の支援活動をお伝えするため、オンラインによる報告会を開催しました。戦闘激化から3年がたった現在も、多くの人びとが支援を必要とする状況が続いています。引き続き、ウクライナ人道危機へのご関心をお寄せいただきますよう、よろしくお願いいたします。
©URCS
ウクライナ人道危機救援事業:
https://www.jrc.or.jp/international/results/ukraine_jrcs.html
イスラエル・ガザ人道危機/レバノン人道危機
2023年10月以降、イスラエルとガザの間で武力衝突が激化し、多くの一般市民が巻き込まれ、UN OCHAによると、2024年11月時点で双方の犠牲者は4万4,000人を超えました。15カ月の時を経て、2025年1月には停戦が発効し、人びとは徐々にガザ北部へ戻り始め、人質の解放と被拘束者の釈放という当事者間で合意されたオペレーションが進んでいます。人道危機の影響は周辺国にも広がり、レバノンでは被害が南部のイスラエル国境付近にとどまらず、急速に全土へと拡大しました。
イスラエル・ガザ人道危機:
https://www.jrc.or.jp/international/results/Israel_Gaza.html
武力衝突が激化して以降、ガザでは多くの避難民が発生し、物資運搬と人の往来の厳しい制限を受けている同地区では、食料や水、薬などがさらに不足しました。2024年5月には、ICRCが日赤を含む12の赤十字社と連携し、ガザ南部のラファに野外病院を設置しました。ポリオの発生が確認されたガザでは2024年9月から10月に、現地保健省が国連や世界保健機関(WHO)などのパートナーと共にポリオのワクチンキャンペーンを実施し、パレスチナ赤新月社も、子どもたちへのワクチン接種を支援しました。イスラエル・ダビデの赤盾社(MDA:イスラエルの赤十字)は負傷者搬送や輸血用血液の確保などの活動で被害にあった人びとを支援しました。ICRCは当事者間の合意を受けて、中立な人道支援組織として、人質や被拘束者の安全な引き渡しを支援しています。これまでにガザ地区からイスラエルへ人質24名を、また、イスラエルからパレスチナ被占領地へパレスチナ人被拘束者985名を移送しました(2025年2月15日現在)。
©ICRC
©PRCS
©MDA
レバノン人道危機:
https://www.jrc.or.jp/international/results/Lebanon2024.html
レバノン保健省によると2023年10月以降2025年2月までにレバノン国内では4,200人以上の死者、1万7,500人以上の負傷者が発生しました。その間、自宅を離れて避難を余儀なくされている人びとも急速に増えました。
レバノン赤十字社は、現場に救急隊を出動させ、負傷者の捜索や救助に取り組んだほか、避難所の訪問や、シャワーや飲料水等の設備の設置や修理、支援物資の配付も担いました。またレバノン国内のパレスチナ難民の支援を行うパレスチナ赤新月社のレバノン支部は、救急隊の活動を強化し、負傷者への応急処置や医療施設への搬送を行いました。パレスチナ人医療従事者の中には、自身がレバノン南部やベイルート南部郊外のキャンプから避難しながら、救援・医療活動を継続する人もいました。
©LRC
©PRCS
中東人道危機救援事業
70年以上続くパレスチナ・イスラエル問題、2010年末以降各地で続く散発的な武力衝突等、中東地域では多くの人びとが長引く紛争や暴力の影響を受けながら暮らしています。日赤は2015年からレバノンに中東地域代表部を構え、中東地域の赤十字・赤新月社、国際赤十字と共に長期的な支援にも取り組んでいます。
―パレスチナ赤新月社レバノン支部 医療支援
パレスチナ難民の医療従事者は、移動などの制限により、日々進化する医療技術を学ぶ機会が限られています。日赤は2018年から医師や看護師を現地に派遣し、技術支援を行ってきたほか2024年7月からは、現地大学と協力し、不足する麻酔科医を補うための麻酔技師養成研修(看護師向け研修)と診断技術向上研修(医師向け研修)を実施し、現地の医療サービスの向上を後押ししています。
©PRCS
―レバノン赤十字社 診療所支援
レバノンは国民一人当たりの難民受け入れ数が世界で最も多い国で、近年では深刻な経済危機にも見舞われています。医薬品等の高騰で、医薬品を無料で処方してくれるレバノン赤十字社の診療所は人びとの健康の最後の砦(とりで)です。紛争の影響で特に南部の診療所には一時的に患者が押し寄せました。日赤はレバノン赤十字社の診療所の安定的な運営や設備の修繕等を支援しています。
同地域では深刻な人道状況が続いています。日本赤十字社は国際赤十字と協力して途切れることなく支援を継続していきます。引き続き、皆さまのご協力をよろしくお願いします。
中東人道危機救援事業:
https://www.jrc.or.jp/international/results/middleeast_jrcs.html
バングラデシュ南部避難民支援事業
2017年8月ミャンマーでの暴力から逃れるため、多くの人びとが隣国バングラデシュへ避難し、今では約100万人が移動や自由の制限された避難民キャンプで身を寄せ合い暮らしています。2024年には新たに推定6万人が国境を越えて、キャンプで暮らす親族や知り合いを頼って逃れてきました(UNHCR、2024年12月末時点)。ミャンマーへの帰還の見通しが立たない中、新規流入は、既に長期化し過密状態が続くキャンプの生活環境を悪化させています。
このような中、日赤は流入直後の2017年9月からバングラデシュ赤新月社を含む国際赤十字と共に支援を継続しています。2024年度は、診療所における保健医療サービス、地域保健ならびに心理社会的支援の連携による包括的な患者支援体制の構築等を通じて、避難民が安心して健康的な生活を送ることができる環境の整備を目指してきました。
(写真)2024年12月に日赤はバングラデシュ赤新月社とカタール赤新月社と共に保健医療施設等を訪問し、関係者への聞き取りを中心に事業評価を実施しました。
これまでの支援実績(※1)
『事業モニタリング及び事業評価報告書』より抜粋
- 診療所における保健医療サービス:21万6,000人以上を診察
現職の医師をはじめ、献身的な診療所スタッフの努力により、日赤が支援しているキャンプ 12 の診療所はコミュニティから高い信頼を得ており、避難民キャンプにおいて「モデル診療所」であると評価されました。また、1)要フォローアップ患者の8割以上が地域保健ボランティアによる世帯訪問を受けている、2)診療所内部に心理的応急処置(PFA)の紹介システムを導入したことにより診療所内でPFAを受けた人の数が増加している、3)診療所で地域保健ボランティア向けに定期的に勉強会が開催されていること等が、「診療所を中心とした包括的な患者支援体制の構築」に向けた取り組みとして確認されました。 - 地域保健活動:28万3,000回以上の家庭訪問を実施
地域保健ボランティアが担当世帯を月におよそ2~3回訪問し、支援が必要な人たちを取りこぼすことがないよう、人びとの声を丁寧に聴きながら、特定されたコミュニティのニーズに基づいたトピックを勉強会で取り上げている点が評価されました。 - 心理社会的支援活動:14万5,000人以上が活動に参加
診療所におけるPFA活動を新たに開始し、診療所と連携する形で支援を提供することで、より切れ目なく、必要なサービスが届く体制を整えた点が評価されました。また、診療所における心理社会的支援活動を基盤とした慢性疾患ケアも開始し、運動療法や患者のピアカウンセリング等を展開することで避難民にとって心身共に健康的な生活様式の獲得に寄与しています。
(※1)支援実績数は2024年10月までの延べ人数
©BDRCS
世界各地で発生する災害や紛争の影響もあり、バングラデシュの避難民支援に対する国際的な資金援助は大幅に減少しています。引き続き、皆さまのご協力をよろしくお願いします。
バングラデシュ南部避難民保健医療支援事業:
https://www.jrc.or.jp/international/results/bangladesh_jrcs.html
アフガニスタン人道危機救援事業
アフガニスタンでは、人口の約3分の2にあたる2,880万人が、数十年にわたる紛争の影響に加え、3年連続の干ばつと2年目の深刻な経済衰退に見舞われ、生き延びるために緊急の人道支援を必要としています。
さらに、1,550万人が深刻な食料不安に直面し、85%以上が貧困ライン(生活していくのに最低必要な収入の基準)を下回る生活を送るなど(UNDP発表)、国全体で人道危機が常態化しており、加えて、難民の帰還、気候変動の影響や、2022年、2023年に発生した大地震が状況をさらに悪化させ、アフガニスタンは世界で最も深刻な人道危機を抱える国のひとつとなっています。
子どもに食料を配付するスタッフ©IFRC
現地のアフガニスタン赤新月社(以下、アフガン赤)は、全国34の全州で活動を展開し、最も支援を必要とする200万人以上の人びとに対し、子ども用の栄養食品の配付や、治療費・生活費のための現金給付などの支援を提供してきました。また、世帯主を失った女性に対する職業訓練を実施し、裁縫や刺しゅうといった技術を通じて収入を得られるよう支援しています。
アフガン赤の活動地には、同社のみが医療支援活動を許されている地域もあります。そうした地域に、医師や看護師からなる巡回診療チームを派遣することで、誰も取り残さない支援に取り組んでいます。
アフガン赤の巡回診療支援の受益者の声
「体調不良の家族を受診させたかったのですが、経済的に厳しく市内の病院に行くことができず困っていました。そんなとき、アフガニスタン赤新月社の巡回診療が自分たちの村に来ていることを知りました。医療施設へのアクセスが限られた地域へ巡回診療を派遣していただき、言葉では言い表せないくらい感謝しています。赤十字は命を救うための支援を提供してくれています。」
アフガニスタン ヘルマンド州 ターヘルさん ©IFRC
2024年度においても、皆さまからお寄せいただいたご寄付をもとに、国際赤十字への資金援助を通じて、ご紹介したような現地での支援活動を継続的にサポートすることができました(2024年度の資金援助実績 計2,970万円)。多くの皆さまのご協力、誠にありがとうございました。今後も引き続き、さまざまな形での支援を継続していきます。
アフガニスタン人道危機救援事業:
https://www.jrc.or.jp/international/results/afghanistan_jrcs.html