2024年度の国際活動を振り返って ~総括編 第4号 頻発、激甚化する災害への対応 緊急事態への備え~
先週の総括編第3号に続き、今回は2024年度の国際救援事業のうち、主に大規模自然災害に対する赤十字の活動をお伝えします。また、緊急時に迅速な支援を可能にするための備えや、国際活動を支える日本赤十字社(以下、日赤)の国際要員についてもご紹介します。
台湾東部沖地震救援事業
2024年4月3日、台湾東部沖を震源としたマグニチュード7.4の地震が発生しました。震源地付近の花蓮県を中心に450棟以上の建物が損壊、複数の死傷者が発生し1,900世帯以上が解体や修繕を要する状態になりました。また、観光地の太魯閣渓谷では、大規模な地滑りや落石が発生したことにより、一時は数百人が孤立状態となり、その後の降雨により、行方不明者の捜索・救助活動が難航しました。
日赤は、2024年4月5日から6月28日まで救援金を募集し、皆さまより28億9,800万円以上のご寄付をお寄せいただきました。皆さまからのご支援は、台湾赤十字組織(以下、台湾赤)の5カ年の復興支援計画に基づく救援・復興支援活動、および防災・減災に関するさまざまな取り組みに役立てられています。
台湾赤は、地震発生後すぐにボランティアを中心とした災害対応チームを被災地へ派遣し、建物や渓谷に閉じ込められた人びとの救出にあたるとともに、被災地付近に46張のテントを設置して避難者の受け入れ環境の整備に尽力しました。さらに、犠牲者の遺族18名に弔慰金、負傷した入院患者24名にはお見舞い金を給付しました。加えて、家屋に深刻な被害を受けた610世帯に家財引換券を支給し、中程度の被害を受けた1,000世帯には修繕補助金を提供しました。また、2024年は地震のみならず、夏から秋にかけて複数の台風が台湾に上陸、度重なる自然災害によりぜい弱な世帯が大きな影響を受けました。そこで台湾赤は、被災により困窮した世帯に1,500個の食料品セットを届け、39校900人の生徒には学業を継続できるよう教育補助金を給付しました。
台湾赤は、2024年12月から2025年1月にかけて、26名の台湾赤のボランティアとスタッフを対象に、緊急対応スキルを向上させるために救急救命訓練を実施しました。花蓮県では防災リーダー養成キャンプを開催し、高校生・大学生21名が防災スキルや災害対応の知識を学ぶとともに、その養成キャンプを修了した学生が講師となり、17名の小学生を対象に防災教育を行いました。
また、今回の地震で被害の大きかった花蓮県では、台湾赤から花蓮県政府に資金提供するかたちで、北部の山間部に位置する和平村の緊急避難所兼コミュニティセンターの建設、および南部の水璉消防署の再建も進められています。同時に、台湾赤は災害対応能力、および組織強化にも取り組んでいます。
©TRCO
©TRCO
©TRCO
台湾東部沖地震救援事業:
https://www.jrc.or.jp/international/results/2024Taiwan_Earthquake.html
トルコ・シリア地震救援事業
2023年2月6日にトルコ南東部と隣国シリアの北西部を襲った「トルコ・シリア地震」。6万人近い人びとが犠牲となったこの地震の発生から2年が経過しましたが、被災地では今も復興に向けた地道な歩みが進められているところです。
およそ12万平方キロメートルという広範囲が被災したトルコでは、2025年2月時点で65万人以上が避難生活を余儀なくされています。さらに、被災地ではいまだに医療施設や医療従事者の数が回復していない地域も少なくありません。このような状況を受け、日赤では主に仮設住宅を対象とした地域保健活動を支援しています。この活動では、人びとが応急手当や感染症の予防について学んだり、より良い健康習慣について知識を深めたりしてコミュニティ全体のレジリエンスを高めることを目標に、トルコ赤新月社(以下、トルコ赤)スタッフやボランティアが講習会の実施などを行っています。2024年の1年間を通して参加者数はおよそ2万4,000人に上り、2024年11月に日赤職員が視察に訪れた際も、講習参加者による積極的な発言や質問が飛び交う様子が見られました。
一方シリアでは紛争や経済危機、そして地震という度重なる苦難に対して懸命な活動が続けられる中、2024年秋以降には隣国レバノンからの大規模な人口流入や国内での急激な情勢変化などがあり、混乱は収束の兆しを見せません。国内で最大の人道支援団体であるシリア赤新月社(以下、シリア赤)は、人びとの緊急的なニーズに応えるとともに、いち早く生活基盤を再建すべく、救援物資や食料の配付、救急車サービスや巡回診療などの保健医療支援、さらに赤十字国際委員会(以下、ICRC)などと協力し給水設備や病院など生活に不可欠な設備の改修など多岐にわたる活動を行っています。日赤も他の支援社との医薬品共同購入や、国際赤十字・赤新月社連盟(以下、連盟)を経由した巡回診療や身体障がい者支援への資金援助など、保健医療分野に重点を置いた支援を続けています。発災2年の節目に合わせて行った連盟シリアオフィスの保健医療コーディネーターへのインタビューでは、保健医療分野を中心に継続的な支援を行っている日赤に対する感謝とともに、復興を見据えた長期的な支援の必要性や最前線で活動を続けるシリア赤スタッフたちの思いなども代弁されました。
より詳しい活動内容については、は2025年2月6日に開催した活動報告会の録画でもご確認いただけます。
地域保健支援で子ども向けに手洗いなど衛生に関する講習を行う様子
シリア赤の巡回診療で順番を待つ人びと©SARC
トルコ・シリア地震救援事業:
https://www.jrc.or.jp/international/results/turkey_syria_jrcs.html
アジア大洋州各国赤への給水・衛生災害対応キットの整備
自然災害、紛争、または感染症のまん延等、さまざまな緊急事態において、「安全な水を手に入れること、衛生面に配慮した生活を整えること」(この記事では「WASH」と表記します)は、病気を防ぐこと、命を救うことにつながり、被災した人びとにとってきわめて重要です。私たち赤十字のような人道支援団体は、緊急事態が発生してすぐに現場に到着し、最後に去る存在であり、私たちが緊急時のWASHの確保を迅速かつ効果的に対応できるかどうかが、何百万人もの人びとの生死を分けることになるのです。
日赤は2009年以来、この事業を通じて、アジア大洋州地域の30カ国以上の赤十字・赤新月社のWASH対応能力の強化に取り組んできました。連盟と協力し、毎年数カ国を選定し支援を行う同事業で、2024年はマレーシア赤新月社や、インドネシアおよびフィジーで、研修や資機材整備を実施しました。日赤が提供する資金は、研修開催にかかる費用に加えて、小型の給水キットの調達・修理や消耗品の補充資金、研修用教材の作成費用、そして実際の災害時の対応費用に活用されました。
2024年もアジア・大洋州地域では、マーシャル諸島の干ばつ、ミャンマー、フィリピン、ベトナムのサイクロンや台風など、さまざまな種類の災害が発生し、45件の緊急対応が行われ、そのうち89%(45件中40件)がWASH対応を含むものでした。直接水の供給や衛生用品を受け取った人は120万人に上りました。この事業は長年の日赤支部の協力のもと継続しているもので、2024年は第5ブロックの岡山県支部職員と本社職員で現地視察を行い、課題の確認や今後の方針等を協議しました。
アジア大洋州地域全体WASH緊急対応研修で浄水方法を学ぶ参加者©IFRC
大洋州地域対象WASH緊急対応研修で小型給水キットの取り扱い方法を学ぶ参加者©IFRC
連盟アジア大洋州地域拠点倉庫への緊急救援物資の備蓄
日赤は、マレーシア・クアラルンプールの連盟アジア大洋州地域事務所の倉庫に、毛布やテント、衛生用品キット、蚊帳など、緊急時に必要な10品目の救援物資を備蓄しています。こちらは連盟の救援物資備蓄戦略に基づき、発災から48時間以内に5,000世帯、その後2週間で計20,000世帯分の救援物資をクアラルンプール倉庫からアジア大洋州地域の被災地に届けることを目標とするもので、日赤はこの倉庫の備蓄目標の大部分を占める数十万もの物資を備蓄し、日々必要に応じた払い出し・補充を行っています。
2024年度は、ベトナムで猛威を振るった台風「ヤギ」への対応をはじめ、フィリピン、ツバル、バヌアツなど計8カ国に救援物資の払い出しを行い、以下の物資が大規模災害等の救援活動に活用されました。
【 品目 】
・フリース毛布・・・・・・・・・864枚
・コットン毛布・・・・・・・・・8,500枚
・飲料水容器・・・・・・・・・・6,039個
・キッチンセット・・・・・・・・2,000個
・蚊帳・・・・・・・・・・・・・・・・13,270枚
・家屋修繕キット・・・・・・・・4,802個
・防水シート ・・・・・・・・・18,000枚
衛生用品キットの輸送準備をするスタッフ(左:連盟に出向中の日赤職員)©IFRC
上記に加え、モンゴルの大寒害「ゾド」への対応として、石けんやタオルなどを含む衛生用品キット1,000個をモンゴル赤十字社に寄贈し、被災者支援に役立てました。クアラルンプールの倉庫から物資を搬出する際には、連盟に出向中の日赤職員が手続きを担当し、モンゴルへの輸送・到着までの調整に尽力しました。
気候変動の影響により、サイクロンや洪水が頻発するアジア・大洋州地域で、適切かつ迅速な物資支援を展開できるよう、今後も連盟との連携を強化し、ロジスティクスの支援体制を整えていきます。
病院ERU展開訓練の実施
地震や台風等世界各地で発生する大規模災害によって、被災国が他国からの支援を必要とする際、迅速に医療支援を届けられるよう、日赤は2021年から緊急展開型野外病院(以下、病院ERU)を保有しています。令和6年12月、約5年ぶりとなる病院ERUの大規模な資機材展開訓練を実施しました。
本訓練参加者は、全国の赤十字病院や支部などに所属する医師や看護師、技術要員、事務要員に加え、電気・給水部門の協力企業関係者や、将来国際看護の分野で活動を志す看護大学生・大学院生等、総勢150名に上り、病院設営から、運営、撤収に至るまで、10日間にわたる実際の病院ERU展開を想定した訓練を行いました。過去に海外の災害現場へ派遣された経験をもつ国際要員が中心的・指導的な役割を担いながら、標準的な作業手順の確認や資機材の機能検証、部門間での連携の確認や課題の抽出などを行うとともに、参加者の相互研さんによって国際要員としての能力の維持・向上を図りました。
加えて本訓練中には、被災地で日赤病院ERUが提供する医療の質の証明を目的として、世界保健機関(WHO)が定める「緊急医療チーム(以下、EMT)」の認証の取得に取り組みました。赤十字としての独立性を保つため、連盟の主導で行われたEMT認証では、日赤病院ERUの各機能について説明するとともに、実際に展開された医療資機材やインフラ設備等がEMT基準に照らし問題がないか確認を受けた結果、日赤病院ERUは、EMT基準を満たす国際的な緊急医療チームとして、赤十字として初めて認証を取得することができました。
病院ERUは、被災直後の最も支援が必要とされる時から、現地の一つの病院として機能し、多くの患者を受け入れることで、現地でひっ迫する医療ニーズに対応することを目指しています。日赤は日本国内に91の病院を運営していますが(2025年3月末現在)、この病院ERUを“日赤92番目の病院”として、自信をもって日本から被災地へ送り出せるよう、多くの病院・医療スタッフを抱える日赤の強みを生かして、今後もさらなる見直しと訓練を重ねていきます。
手術室での訓練の様子
展開された資機材・機能について説明する様子
2024年度国際要員の派遣実績
自然災害や紛争、感染症などの人道危機に対しては、支援を現地に届け、活動を展開する「人」が欠かせません。日赤では国際救援・開発協力事業に従事するスタッフである「国際救援・開発協力要員(国際要員)」を世界各国に派遣し、現地の赤十字スタッフやボランティアと協力して人道支援活動を行っています。医師や看護師、ロジスティシャン、事業管理担当など、多岐にわたる人材が日赤の国際要員として活動し、現地のコミュニティに対する保健・衛生知識の普及支援や、レジリエンス向上を目的とした防災や救急法、こころのケア(心理社会的支援)の普及等、さまざまな支援に携わっています。また近年では、実際に現地に赴くだけでなく、オンラインによるリモートでの支援活動(技術支援等)を組み合わせ、柔軟な支援に取り組んでいます。2024年度は、中長期の支援活動への派遣が多くなったことを背景として、国際要員が現地で活動する期間(滞在日数)がより長い傾向にありました。全体としては延べ45人の国際要員が14カ国で活動しました。