日赤の病院ERU(テント型野外病院)、3年の整備期間を経て出動準備完了

赤十字の緊急対応ユニット(ERU : Emergency Response Unitは、海外での大規模災害時に緊急出動できる訓練された専門家と資機材をセットにしてあらかじめ整備しておくもので、大規模な災害等が発生した際に赤十字の迅速な災害救援活動を可能にするための国際赤十字のツールのひとつです。日本赤十字社(以下、日赤)は保健医療分野のERUを保有しており、国際赤十字の救援活動の一翼を担っています。

日赤は、2001年から診療所規模の基礎保健ERU(現:診療所ERU)を国際救援の現場に派遣し、海外の被災地等で医療サービスを提供する活動を行ってきました。2019年、これら海外での国際救援の経験、また豊富な国内救護の活動実績を生かし、アジアの赤十字社としては初めて海外の被災地へ航空輸送・緊急展開が可能な病院ERU(病院型緊急対応ユニット※野外病院)の導入を決定し、3年の整備期間を経て2021年10月、資機材などの必要な整備の完了を迎えました。日赤の海外での災害対応力を大きく強化する病院ERUの概要をご紹介します。

大規模災害時、機能不全に陥った地域の保健医療システムをサポートする「病院ERU」

病院ERUは、緊急事態や大規模災害時に医療インフラがまったくないか、大きな損害を受けた地域で、医療活動を通じて被災者の避けうる死を可能な限り減らすこと(救命)を第一目的として展開します。大規模な自然災害や長引く紛争下では、現地の医療施設が被災して機能しなくなると多くの人びとの命が危険にさらされることになります。重傷を負い、緊急に手術が必要な場合であっても、その設備が整っている遠くの町への搬送はすぐには難しく、救えるはずの命が失われる可能性もあるのです。

病院ERUでは24時間の診療ができるため、入院加療が必要な内科疾患や救命措置が必要な急性疾患の手術、異常分娩への対応などが可能となります。また、四肢外傷による後遺症を最小限にする治療を行うなど、その後の患者の生活の質を可能な限り維持し、尊厳を守ることを目指しています。

画像 2019年大阪府の高槻赤十字病院で実施した日赤病院ERU実証展開の様子

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病院ERUは、被災地の水や電気などのインフラが破壊されていても、自己完結型で展開できるよう設計されています。そのため、病院機能に必要な医療設備のほか、給排水設備や大型発電機、キッチン、スタッフ宿舎、事務管理施設といった支援設備が資機材に含まれています。これら資機材は総量約60トンにのぼり、病院ERUが想定する被災地での4カ月~6カ月の活動を支えます。また、病院ERUの運営には1カ月あたり多い時には130名近くのスタッフが必要となり、日赤から派遣されるスタッフだけではなく、被災国赤十字社や姉妹赤十字社から加わるスタッフとの円滑な連携と協働が今後の実際の活動時には重要な要素となります。

※日赤の病院ERUをバーチャルで体験!病院ERUウェブサイトでは病院ERUに関する情報を網羅的にご紹介しているほか、バーチャルツアー機能(右写真)で各設備のテント内の様子を360度画像で自由にご覧いただけます。ぜひこの機会にご体感ください。

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新型コロナの流行、感染症対策を追加実施

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整備された病院ERU資機材が整然と並ぶ (c)大阪赤十字病院

新型コロナの世界的まん延は当分続きそうであることから、病院ERUでは新型コロナ感染疑いや新型コロナ感染症を併発している患者の受け入れを想定して、スタッフや患者を感染から守るための追加整備を実施しました。感染症下での救援活動に備え、必要となる個人防護具の準備や新型コロナ併発患者を隔離するための病棟等を整備しています。

大規模災害時の病院ERU出動に備えて

病院ERUの整備は、皆さまからのご寄付によって成り立っています。病院ERUを災害発生時に迅速に展開できるようにするためには、普段からの資機材管理や継続的な要員研修などが必要です。緊急時に迅速に対応し、被災地の人びとの命と健康を守るため、皆さまの ご支援を今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

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