未来を守る「防災ゼミナール」Vol.3

命を奪う水の力と「低体温症」

津波、洪水に巻き込まれたら

今月の研究部門
災害救援技術部門

お話を伺った人
日本赤十字看護大学附属
災害救護研究所 客員研究員
栗栖 茜さん

 近年、集中豪雨による川の氾濫・洪水などの危険が高まっています。また、大きな地震も発生しているため、津波への警戒も怠ることはできません。
水害の人的被害とはどういうものか。東日本大震災では、発災から1カ月後のデータによると、亡くなった方の死因の92・4%が溺死でした(*)。そのデータを知ったとき、私は外科医として衝撃を受けました。津波で亡くなった方の何割かは、激しい水の力で致命傷を負ったと予想していたからです。

水の中で何が起きているのか…それを検証するため、神奈川県にある港湾空港技術研究所で人工津波を使った実験をしました。わずか50cmの高さの人工津波に対し、体重約50kgの人形は津波の渦に巻き込まれ浮上できませんでした。津波のエネルギーは大きいのです。ただこのとき、津波で助かる方法も確認できました。それは、ライフジャケットの着用です。津波の中でライフジャケットを着けた人形は水面に浮き続けました。ライフジャケットは水遊びの装備と思われるかもしれませんが、水害から命を守るアイテムです。水に濡れると膨らむ膨張式、ベスト型、コンパクトに折りたたまれているものなど、さまざまなタイプがあります。使いやすいものを選び、家の玄関など、ぱっと手に取れる場所に置きましょう。

 さて、溺水のほかにも、水害で命を落とす要因があります。体熱が水に奪われ続けることで起きる「低体温症」です。人は体温が35度以下になると、呼吸の減少、血圧の低下が起こり、死に至ることも。ライフジャケットで水に浮かぶことができたら、イラストにある「HELP姿勢」を取りましょう。これは、足を体に引き寄せ、水流に触れる表面積を減らすことで、体温の低下を防ぐことができるポーズです。また、陸に上がった後も濡れたままだと気化熱により体温が奪われるので、乾いた布で体を覆うなどして、体温の低下を防ぐこと。体が激しい震えを起こして熱を生み出そうとするので、保温が肝心です。これらの情報は拙著「あなたの身近な低体温症を防ぐには…」(海山社)で詳しく述べています。なお、水害への備えは「被害に巻き込まれない迅速な避難」が何よりも大切であることも、お忘れなく。
(栗栖茜さん 談)

「平成23年版警察白書」より

HELP姿勢=Heat Escape Lessening Posture(熱が体から水へ逃げるのを減らす姿勢)。膝を抱えたり、曲げた膝と胸の間に腕を入れるなど、できるだけ体を丸めましょう。