おしらせ:核兵器廃絶の願いを世界へ ~トルコ赤新月社での被ばく者の講演~
2017年、被ばく者の平均年齢は80歳を超えています。長年にわたって自らのつらい体験を絞り出すように世界に伝え、核兵器の禁止・廃絶を訴えてきた彼らの声を直接聞くことができる時間は残りわずかとなっています。
この度、日本赤十字社はトルコ赤新月社からの要請を受け、被ばくの実相をトルコの人々に伝えるため、9月に広島市の笠岡貞江さんとその同行者として広島赤十字・原爆病院の日隈妙子看護師をトルコに派遣しました。
トルコで伝える被ばく者・笠岡さんの体験
トルコ赤新月社は、4月に日本赤十字社と赤十字国際委員会の共催で長崎にて開催した「核兵器の禁止と廃絶について議論する国際赤十字・赤新月運動会議」に参加しました。その際、長崎の被ばく者の証言を聞いたトルコ赤新月社の副社長が感銘を受け、トルコ国内における同問題についての喚起を行うため、日本からの被ばく者の招聘を要請しました。
笠岡さんは、高等女学校1年生だった12歳のとき、爆心地から3.5km離れた広島市の自宅で被ばくしました。原爆で両親を失い、自身も被ばくの影響と思われる症状に悩まされました。両親を亡くした生活は悲惨であり、被ばくを理由とした差別にも苦しめられたと言います。笠岡さんは、現在も多い時で月に10回ほど広島平和記念資料館で子どもたちなどに向けて証言を行い、これまでにアメリカやスペインでも証言活動を行うなど精力的に自身の体験や戦争と原爆の恐ろしさを語り継いできました。
トルコでは、トルコ赤新月社と関係の深い大学やトルコに避難するシリア難民のためのコミュニティセンターで講演会やコミュニティセンターの子どもや女性たちとの交流が行われました。笠岡さんの証言を聞く大学関係者や子どもたちの真剣な眼差しが印象的であったと同行した日隈看護師は語ります。
日程の最終日にはトルコ赤新月社と在イスタンブール日本国総領事館の主催によりトルコ・メディア向けの記者会見が行われました。トルコ赤新月社の副社長は記者会見にあたり「世界の戦争をなくすためには、体験を伝えることです。被ばくの体験が世界で二度と起こらないように祈っています。」と述べています。笠岡さんの体験と平和への思いは、全日程をとおして、トルコ国内のテレビや新聞、ネットメディアの取材を受け、広くトルコの人々へ伝えられました。
国境や世代を超えて被ばく者が語り継ぐこと
今回のトルコでの証言を終えて、笠岡さんは次のように語っています。
「被ばく者の願いは、原子爆弾の使用は広島・長崎で終わりにしてほしいということです。核兵器を二度と使ってほしくないのです。そのためには核兵器の威力や脅威、悲惨さを知ってほしいと思っています。日本の若者は戦争を知りませんが、世界では紛争が起きています。そして世界にはいまだ多くの核兵器が残されています。戦争のために核兵器を使用するようなことは避けなければなりません。被ばく者の証言を聞いて、核の脅威を海外の人にも若い人にも認識してもらい、核兵器が無くなるように考えてほしいと思います。世界中が平和になるように願っています。」
また、同行した日隈看護師は、「平和への思いを体験をとおして伝えていける人は、そう多くはありません。今回、笠岡さんのトルコでたくさんの人に被ばくの実相を知ってもらいたいという思いを実現するため、多くの取材を受け、証言活動を行うお手伝いが出来たことを大変光栄に思います。」と今回の派遣を振り返りました。
赤十字のネットワークがつなぐ被ばく者の思い
9月20日、国連で核兵器禁止条約の署名が開始され、同日中に50カ国の代表が署名を行ったことが発表されました。同条約には、長年にわたって核兵器の禁止・廃絶に向けて声を上げ続けてきた「ヒバクシャ」の文言も盛り込まれ、これまでの彼らの思いが反映されたものになっています。
これまで被ばく者が担い、積み上げてきた活動を次世代の私たちは引き継いでいかなければなりません。赤十字は、被ばく者の思いが形となった核兵器禁止条約を実効性のあるものとするためにも、被ばくの実相を国境や世代を超えて広く知ってもらう必要があると考えています。