トルコ・シリア地震から1年 【ワールドニュース】被災者の心の復興を支えて

2023年2月6日にトルコ南東部を震源とする地震により、トルコやシリアの広い地域が甚大な被害を受け、約330万人が避難を余儀なくされました。その傷痕は、発生から1年たった今も、被災地の人々の暮らしに影を落としています。日赤 国際部でトルコ・シリア地震事業を担当する竹下葉月さんに、今のトルコの被災地の状況を聞きました。

赤十字の給付金のことを知って思わず竹下さんの手を握り、喜びと感謝を伝えるエズテュルクさん

◆竹下 葉月(たけした・はずき)/国際部 国際救援部
学生時代には東日本大震災のボランティアにも参加。今回トルコを訪れ、実際に自分で被災地を感じ、そこで生活を送る方々とコミュニケーションをとる重要性を改めて実感した。

日本からの寄付が活用され日赤が配備したランドリー車の前で、住民に歓迎される竹下さん

地震から1年以上が経過しても
避難所、仮設住宅での生活が続く

今回の派遣では、1月8日から19日の日程でトルコに向かい、トルコ赤新月社(以下、トルコ赤)のスタッフと共に、日赤の給水衛生支援であるランドリー車(シャワーブースや洗濯設備を積んだ大型コンテナ車を12台配備)の設置場所や被災者の生活の様子を見て回りました。地震の被害が大きかった地域を車で走っていると、発災から約1年がたとうとしている今も、街の至る所で瓦礫(がれき)が積まれたままで、あまり復興が進んでいないという印象でした。

復興が進みにくい背景には、このトルコ・シリア地震の被害が広い範囲にわたっていることがあると思います。単純な直線距離で約500kmに及び、日本で言えば東京都から岡山県近くまで届く広さです。トルコ政府は市民生活の再建に尽力していますが、復興にはまだまだ時間がかかるように感じました。

一方で、ガジアンテップ・イスラヒエ地区にある約5000棟のコンテナ仮設住宅が設置された避難所では、スーパーマーケットが開設されるなど生活の基盤がある程度は整えられ、トルコ赤ではそのエリアにコミュニティーセンターを設けて地域保健活動を実施したり、コンテナ図書館を設置する計画も進んでいました。

また、国際赤十字は、被災者の生計支援や「こころのケア」にも力を入れています。生計支援とは、例えば農家の人の耕作機械や店舗の設備の購入など、仕事を再開するための資金援助や、地震の影響で収入源がなくなってしまった家庭や高齢者への金銭的な支援などです。ただ、被災者それぞれの複雑な背景があり、全てを失って何かを始めることが難しい高齢者、家族が亡くなったり離れ離れになってしまった家庭など、多くの場合、再建への道のりはとても険しいようです。

仕事も家も失ったコチさん夫妻は、赤十字を通じて届いた日本の支援と「こころのケア」への感謝を話す

被災者の一人一人の声を
拾うことで見える必要な支援

避難所の訪問では、コンテナ住宅で暮らす高齢の女性、エズテュルクさんに話を聞きました。彼女は地震による生活難が原因で夫と別れ、コンテナ住宅で娘や孫と暮らしています。

訪問してみて、トルコ赤の担当者も驚くことがありました。彼女はトルコ赤からすでに振り込まれているはずの厳冬期対策の給付金について知らない、と言うのです。彼女の携帯電話にはショートメッセージで入金通知が届いていました。ところが、文字が読めないので内容が分からなかったのです。エズテュルクさんは給付金の振り込みを知ると、安どと喜びのあまり、私とトルコ赤スタッフの手を強く握り、「ありがとう。あなたたちの善意は、私の記憶の中の美しい場所として残ります」と、涙ぐみました。

実は、赤十字の給付金はコンテナ住宅の被災者全員に配られたわけではなく、調査や聞き取りを行い、特に支援が必要と認定した方に資金援助をしています。そのため、地域全体に広報することはせず、個人の携帯などに支援の通知をするのですが、このような事例があると、さらに細やかなフォローが必要だとトルコ赤のスタッフも痛感しました。

また、別の被災住民、高齢のコチさん夫妻は、すでに多くの支援を受けていることへの感謝を述べつつ、「足りないものが多すぎて…。けれども、もっと必要だとは言えない」と、複雑な心情を話してくれました。コチさんは、地震以前は苦しいことがあっても誰かに相談することはなかったけれど、余震と避難生活が続く中、トルコ赤による聞き取りによって不安が和らぐのを感じ、「こころのケア」の大切さを実感したそうです。

トルコの被災地では、私が日本から来たことを知ると、多くの人が能登半島地震のことを気にかけてくれました。コチさんも「地震で大変なことになったね、心配してるよ」と、自身が被災者なのに遠い日本に思いを寄せてくれ、トルコの人々の温かさを感じました。

地震発生から約1年がたち、世界の情勢が目まぐるしく変化する中で、世界だけでなくトルコ国内でも被災地の報道は減り、人々の関心は薄れてきています。しかし、いまだに困難な状況に置かれ、将来への不安の中で暮らす人々が数多く存在します。赤十字は世界から目を向けられなくなった地域でも、そこに苦しみを抱えている人がいる限り、寄り添って支える活動を続けていきます。

トルコ共和国ってどんな国?

ヨーロッパと中東の中間に位置し、東西に長く広がる国土を持つトルコ。同国の南に位置するシリア・アラブ共和国とともに受けた、大きな地震の被害は広範囲に及び、復興に向けて引き続きの支援が求められている。