能登半島地震「こころのケア」 心理的ストレスを抱える被災者を救うために

日赤が行う災害救護の柱の一つでもある「こころのケア」。元日に発生して甚大な被害をもたらした能登半島地震の被災地でも、多くの人々が震災によるショックや長引く避難生活によって心理的ストレスを抱えています。
今回は、被災地で実施した「こころのケア」にスポットを当て、その活動内容と被災地の現状をお届けします。

なぜ、被災地では「こころのケア」が
必要とされるのか?

 人は災害に遭うと身体が傷つくだけでなく、心も傷つきます。そして傷ついた心が回復できず、精神的な病気を発症することがあります。苦痛や苦悩を軽減し、病気を予防する活動が「こころのケア」です。時間経過にともなう被災者の心理的変化として、発災直後は、経験している出来事に圧倒され茫然自失の状態となりますが、その後は被災地の人々が活動的になり結束力が高まるハネムーン期が訪れます。しかし、時間がたつにつれて避難生活による疲労の蓄積に加え、支援者の減少や被災者の間にも状況に違いが出てきます。この時期は幻滅期と呼ばれています。移り変わる状況に合わせた心理社会的サポートが必要とされています。

能登の被災地でこころのケア活動を行った公認心理師のリポート

「大切なのは、変化に応じて、
苦しみを和らげるアクション」

石巻赤十字病院 
公認心理師
佐々木暁子さん

 「こころのケア」は私たちのような心理ケアの専門家が1回実践したらもう安心、というものではありません。実は、被災者の状況の変化に合わせたフォローが大切なのです。石川県の志賀町での活動は、発災から1カ月未満の時期でしたが、上下水道が復旧しておらず、住民の生活は混乱の中にありました。一方で日頃から地域の結びつきが強く、避難所では皆が集まって相撲を観戦するなど、一時的にでも気を紛らわせることができていました。しかし、ここから時間が経過すると人々の心理状況も変化します。被災状況が明らかになり、今後の生活再建の見通しが立たないと、希望を失い気持ちが落ち込みやすくなります。また、日頃から結束の強い関係性であったとしても、集会所や公民館などの間仕切りもなくプライバシーが保てない避難生活を続けていると、疲労やストレスは蓄積していきます。状況の変化とともに精神的苦痛の内容も変わる…その変化に応じた継続的な支援が重要なのです。
 志賀町の「こころのケア」は、地元の保健師さんや被災地域で生活を続けられている方を支援するため、避難所に赴き、避難されている方々からお話を伺いました。通院できないことへの不安や、持病の薬が入手できずに強い不安を抱えた方には医療支援チームへつなぎ、大切な飼い猫たちを車の中に閉じ込めて世話していることに苦悩していた方には、被災地で活動する動物保護団体につなぎました。その方の心の負担を軽くするために、必要な支援に「つなぐ」というアクションも、こころのケア活動のポイントです。

ささき あきこ ● 宮城県にある同院にて患者の心理的サポート、職員のメンタルヘルスに関わる業務に携わる。能登半島地震では、1月24日から28日にかけて石巻赤十字病院のこころのケア班として被災地で活動した。

能登の被災地で展開した日赤のこころのケア活動

 日赤のこころのケア活動は発災当初から医療救護班に帯同する形でこころのケア要員を派遣し医療救護活動に併せて実施してきました。
 その後、発災2週間後を目安として専門チームであるこころのケア班の活動を開始するための調整が始まり、被災地の行政や、DPAT(災害派遣精神医療チーム)をはじめ災害時の精神保健・心理社会的支援を行う機関と連携を図りました( 写真①)。
 災害によって経験した精神的な苦痛や苦悩を軽減することにより、精神的な病気などを予防し、ストレスからの回復力を高めるのがこころのケア活動の目的です。日赤のこころのケア班は、被災地を巡回しながらニーズを探り( 写真②・③)、精神的な医療が必要なケースには専門医につなぐなど、あらゆる組織や団体と連携して活動を継続。七尾市・志賀町・輪島市・珠洲市・能登町で活動を展開したこころのケア班は延べ29班となりました(3月19日時点)。

被災行政の職員に対する「こころのケア」

「こころのケア」支援者支援

 被災者を支援する行政職員は、発災直後から過重労働に陥りやすく、クレーム対応などさまざまなストレスにさらされます。中には自身も被災している立場ながらその苦悩を表に出さずに被災者のために働き続ける方もいて、過労・精神疲労から身体の疾患を発症させたり、燃え尽き症候群に陥る場合があります。日赤の「こころのケア」は、そういった支援者の負担を軽減する活動にも重きを置いています。能登半島地震の支援活動では、行政職員が業務の合間に心身の休息をとれるように、市役所・町役場の中にリフレッシュルームを設営し、希望者にはハンドケアや足湯などのリラクゼーション、傾聴などを行いました。


【リフレッシュルーム利用者の声】
皆さん、足湯やホットアイマスクを使用して休息をとり、癒やされた様子で…


●Voice 01
「楽になりました。暖房の効かない場所で作業して冷えていたので、足湯で温まりました。本当に助かります。もう一踏ん張りできそうです」

●Voice 02
「自分で手浴や足浴しても温まらないのにやってもらうと温まりますね。いい香りで、この空間に来ると安らぎます・・・ありがとう、すっきりした。午後からもがんばれます」

●Voice 03
「リフレッシュルームから戻った職員がニコニコしていましたよ。私も体が軽くなりました。普段はあまり言えないような話も聞いてもらえて・・・なんだか安心しました(涙ぐみながら)」

(写真左から)首・肩を温めながら蒸気で目元を温めるアイマスクを着け、足湯をしながらハンドケアを受ける行政職員 / 疲労でこわばった全身をほぐされながら、普段は口にできない思いを話されたり。そのまま数分ウトウトしてもらったり / 職員の方が利用する通路にリフレッシュルームのケアの案内を掲示