未来を守る「防災ゼミナール」Vol.1

日赤の災害救護研究所の専門家の視点から、災害時に必要な知識や今から始められる防災など、役立つ情報を発信します。

厳冬期や猛暑の夏…過酷な環境下で
避難生活を乗り越えるには

●今月の研究部門:
災害救援技術部門

●お話を伺った人:
根本 昌宏さん
日本赤十字北海道看護大学
看護薬理学領域 教授

 私は大学で薬理学などの指導をする一方で、寒冷地の災害対応に関する研究を行っています。
 オホーツク海に面した北見市にある本学で、最低気温がマイナス10度を下回る寒冷期に「厳冬期災害演習」を自治体の防災担当者・災害医療関係者のみで14年前から実施し、冬の避難環境に関する検証を行っています。

 今年1月の能登半島地震は、電気・水道が整備された日本の積雪寒冷地で、初めて厳冬期に起きた災害のため、発災直後から低体温症の懸念が報道されていました。この機会に皆さんに考えていただきたいのは、ご自身の環境や事情を具体的に想定した備えができていますか、ということ。能登の最低気温と1月の東京、名古屋の最低気温は実はほとんど同じです。真冬の避難生活で、乳幼児のいる家庭、高齢者のいる家庭では必要なもの、なくては困るものが変わってきます。また、昨夏のような酷暑が続く状況であれば、別の備えが必要になります。一般の防災マニュアルは、個々の状況に完全に対応していません。また、多くの方に「厳冬期や真夏に大きな災害は起きない」という思い込みがありますが、極寒の屋外に避難することや酷暑で冷房が使えない環境で生活する場合なども想像してみてください。備えは、変わってくるはずです。

 避難生活の備えで、季節関係なく重要なものは「トイレ」です。水道が使えないと、避難所のトイレも普段と同じようには使えません。仮設トイレが設置されても移動距離が長く、夜になれば真っ暗で不便となり、多くの方が使う中で衛生的に厳しくなる…。災害時に快適なトイレを展開することは難しいことです。トイレを控えることを起因として災害関連疾患(エコノミークラス症候群など)が誘発されることも認識しておいてください。ご自分で、携帯トイレの用意をしておくことは基本の備えとして重要です。

 最後に。今回入らせていただいた能登の避難所では、地域の関係性があるからこそ協力し合って暮らす姿が見られました。人のつながりが、いざというときの共助力になる。近所つきあいが希薄になったと言われて久しいですが、私は、コロナ禍を経て町内や隣近所の集まりが減ったことを懸念しています。面倒と感じても人づき合いを大切にすることも、重要な備えの1つです。

【災害救護研究所とは?】

日本赤十字看護大学付属の研究機関として2021年に発足。災害時の救護活動を通して得た知見を学術的に分析・集約し、被災者の苦痛の予防・軽減を目的とした研究所。