南スーダン:助かる命を助けたい

紛争が続く南スーダンで活動した日本赤十字社の要員による二回目のレポート。今回は、2016年3月から約半年間、首都ジュバを拠点に赤十字国際委員会(ICRC)の巡回外科チームの一員として活動した朝倉裕貴看護師(武蔵野赤十字病院)が支援の現場をお伝えします。

南スーダンの医療を支える巡回外科チーム

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国内各地にいる重症患者はジュバの病院に搬送する ©ICRC

外科医、麻酔科医、手術室看護師、病棟看護師、現地医療従事者などで構成される赤十字の巡回外科チームが南スーダン全土で活動しています。チームのミッションは、赤十字の7原則に基づき、政府軍と対抗勢力両方の医療施設で、紛争により負傷した患者を治療すること。インフラが十分に整備されていないため、私たちはセスナやヘリコプターに乗り、現場に向かいます。私は「フライトナース」として、幾度も国内を飛び回り、手術が必要な患者の搬送を行いました。また、ジュバの他にコドックという北部の町でも2カ月ほど活動していました。日本赤十字社はこのチームに継続的に医療要員を派遣しており、これまで医師3人と看護師4人が活動に携わっています。

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外科医とともに手術にあたる朝倉看護師(右)

手術室看護師の私は1カ月に約120件の手術に携わりました。そのうち、銃などの武器による怪我が約7割を占めていました。その他にも医療機関へのアクセスが難しいため何週間あるいは何カ月も放置された膿瘍や、ナイル川沿いで釣りをしていてカバに襲われて来院する患者もいます。手術と言っても日本のように人材も資機材も豊富にはありません。日本では数名のチームで行う手術も南スーダンでは私と医師1人、器材や物資が足りないときは自分たちで作ることもあります。このような環境でこそ看護師としての自分の力量が問われていることを痛感しながら毎日、活動に取り組んでいました。

患者さんの治療と同時に、私たちは現地スタッフの教育にも取り組んでいます。とはいうものの、英語ができるスタッフはほとんどいません。通訳では細かいニュアンスが伝わりづらいため、実際は見て学んでもらうことが多かったです。長期におよんだ紛争で、教育を受けるという習慣自体が根付いていないことも実感しました。私自身も忍耐強く接することを心掛けましたが、現地スタッフにとっても非常に苦労の多い時間だっただろうと察しています。

忘れられない7月8日

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手術後の患者を病棟に運ぶ南スーダン赤十字社のボランティア ©ICRC

南スーダン5回目の独立記念日前日の7月8日。いつもと同じように私はジュバの病院で患者の処置をし、一日を終えようとしていたところに銃声が聞こえました。突然のことに驚きましたが、すぐにその場に身を伏せ、全ての業務を中断し、緊急時に使用する院内の部屋に退避しました。幸い赤十字のスタッフもボランティアも無事でしたが、戦闘は激化。5日間、身動きが取れず活動の中断を余儀なくされました。その後、安全確保を第一にしながら、傷病者の手当てや遺体の搬送、管理、避難者への支援などに取り組みました。私自身は怖いという感情より、活動が一時的に制限されたことで私たちを必要とする患者さんの治療ができないことへの辛さが沸き起こりました。日本では抱いたことのないこの葛藤と、看護ができなくても何かしらの方法で役に立ちたいという思いから、自分にできることを探し続けました。チームが円滑に活動を進められるよう、誰かがやらなくてはいけない部屋の掃除や洗濯にも私は積極的に取り組み、自分なりの貢献方法を見つけました。

苦悩が新たなパワーとなる

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緊張ぎみの子どもたちとともに

約半年間の南スーダンでの活動中、医療が現地の人びとにとって身近な存在にないことが医療者の私としては大変もどかしかったです。日本だったら助かる命が南スーダンでは助からない。命の価値は同じはずなのに、そうではない現実がある。憤りさえ感じました。ほとんどの患者さんが、病院で治療を受けるのは怪我をして何日も経った後。家の近くに病院がない、お金がないなどそこには様ざまな理由があります。もっと早く病院に来ていれば、命が助かったかもしれないという場面に何度も遭遇しました。長期にわたる紛争により、医療者をはじめ人びとは十分な知識を持ち合わせていないのです。守らなければいけない命を守ることができない現状を目の当たりにし、本当に辛かった。だからこそ、現地のスタッフを育て、医療をもっと身近な存在にしていく取り組みの必要性を強く感じています。

また、7月の銃撃戦で感じたこと、考えたことも一生忘れられません。組織として、個人としてどのように行動するのか、自分がその場で何ができるのかを考えることの大切さを身をもって実感しました。この経験を活かして、今後も支援を必要としている人々に寄り添い続けたいと思います。

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