ヨルダン:地域を支えるボランティア育成

今年は2011年のシリア紛争勃発から10年目になります。紛争が長期化する中で、メディア報道で取り上げられる機会も減ってきていますが、家に戻りたくても戻れない人たちの多くは周辺国に留まり、その数は未だ550万人を超えます。

日本赤十字社(以下、日赤)は、このようなシリア難民支援の一環として、2015年から今年3月まで5年間に亘って、ヨルダンに計11人の看護師など専門職員を派遣し、地域住民参加型保健事業(CBHFA:Community-Based Health and First Aid)を実施してきました。新型コロナウイルス感染(COVID-19)の影響も受けるヨルダンでは、コミュニティの人びとをつなぐボランティアの力が求められています。今回はヨルダンでのCBHFA事業について紹介します。

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子どもたちへの手洗いワークショップの様子 ©日本赤十字社

ヨルダンのシリア難民とCBHFA事業

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国土の大半を砂漠に覆われるヨルダンでは、建国以来、周辺国での紛争・騒乱等によりパレスチナ人、イラク人、そしてシリア人の難民を受け入れています。2011年以降シリア紛争によって65万人ものシリア人が流入し、現在でも避難生活を送っています。ヨルダンでは、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)など国連機関が運営する難民キャンプがありますが、就業制限などのため、多くの人がキャンプを離れ都市や農村に居住しています。キャンプ外での難民は、キャンプにはある住居や医療などの保証がない生活を生き抜かなければなりません。

そのようなシリア難民を支援しているのが、現地のヨルダン赤新月社(以下、ヨルダン赤)、国際赤十字・赤新月社連盟ヨルダン事務所(以下、連盟)や様々な支援団体です。ところが、紛争の長期化は難民たちの負担を増やすだけでなく、支援団体においても特に財政面で、活動継続の困難に直面する状況を作り出しています。2014年末にはヨルダン政府も、それまでシリア難民に対し無償で提供していた医療サービスの打ち切りを決定し、シリア難民の健康の維持に大きな課題が生じました。

そこでヨルダン赤と連盟が取り組んだのが、コミュニティの中で持続的に人びとが健康を維持していくためのCBHFA事業です。特徴のひとつは、地域住民の中からボランティアを育成することで、外部からの支援のみに頼らない、地域住民の自立的な力を育む「レジリエンス強化」という考え方に基づいています。保健だけでなく、交通安全や薬物乱用防止といった地域の持つ様々な課題にも取り組みます。

日赤はこの事業に対し2015年から看護師などの職員を連盟に派遣し、地域活動の担い手であるヨルダン赤ボランティアの育成をサポートしてきました。この活動は、若者の地域への参加やリーダーシップの育成にもつながりました。

派遣職員が語るボランティアたちの活躍

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ワークショップに参加した子どもたちと三戸看護師

©日本赤十字社

2020年3月に、6か月に亘ってヨルダンで活動してきた三戸道江看護師(山口赤十字病院)が帰国しました。三戸看護師は、ヨルダン赤ボランティアたちに寄り添う中で感じた、彼/彼女たちのたくましい姿を次のように話してくれました。

「CBHFA事業は、シリア難民が多く住む8つの地域で展開され、毎年100人以上のボランティアが多岐に亘る研修プログラムを修了します。活動を通じてボランティアは地域になくてはならない存在となり、例えば健康促進の指導に来たボランティアの若者を、地域の子どもたちが毎回心待ちにしている姿が見られます。ボランティアは、子どもたちの意欲と関心を引き出すパフォーマンス力に溢れ、楽しい空間作りのスキルを身に付けています。

またより住民に近いボランティアは、人びとが生活の中で直面している困難に細やかなケアを施すことができます。難民生活のストレスにより過度な喫煙に陥った男性に対し、CBHFAのボランティアが足しげく男性を訪れて禁煙を成功させたり、貧困家庭に対し適切な支援団体を紹介したりと、地域や家族の環境を良くする活動があちこちで報告されています。」

ボランティアたちの境遇についてと、ボランティアたちからの学びを、三戸看護師は語ります。「難民として故郷を離れた人びとは、戦禍にある故郷への帰還を願いつつも、避難先での今の生活を生き抜くため、一生懸命です。しかし『難民』という立場では、仕事を得ることも容易ではありません。そんな中でもボランティアたちは、仕事につながる技術や経験のためだけではなく、社会の役に立ちたい、人の命を守りたいという強い思いを持って活動に参加しています。

CBHFAを通してボランティアたちが人びとに訴えるのは、生活の中での「行動変容」です。今、日本でもCOVID-19の影響により私たちは様々な場面での行動変容を求められています。その中で、世界の人びとの状況を思いその人たちへの支援の行動を示すこともまた、私たちの住む社会や世界をよくしていくことにつながります。」

新型コロナ禍に求められるボランティア活動

ヨルダンは7月中旬時点でCOVID-19の感染者が約1200人、死者数10人と、他の中東諸国と比べても感染拡大を抑えられている国で、政府は感染防止対策に力を入れています。しかし、感染対策で都市封鎖が敷かれる中で難民など脆弱な人びとの負担は増しています。

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食糧配布の様子©ヨルダン赤十字社

ヨルダン赤では、食糧配付など困窮する人びとへの緊急救援を実施しています。一方で、CBHFAボランティアたちの活動は、ボランティア自身の安全のため一時休止となっていますが、活動再開に向けた準備を着実に進めています。COVID-19の影響が長期化する中、社会的に脆弱な人びとこそ、コミュニティの人びとを繋ぐ要となるボランティアの力を必要としています。日赤から派遣された看護師たちの技術や経験はヨルダン赤とボランティアたちに託され、ヨルダンに住む多くの人たちの今後に大きな役割を果たしていきます。

COVID-19の危機を受け、ヨルダンを含め世界中で苦しむ人びとを救うため、各国の赤十字社・赤新月社をはじめとする国際赤十字は、それぞれの場所で必要なあらゆる支援を行っています。日赤も国際赤十字赤新月社連盟の緊急救援アピールに対して1,000万円の資金援助を行い、COVID-19の社会経済的影響の緩和のため、食糧配給等の支援活動等をサポートしています。

今後もぜひ、みなさまの温かなご協力、ご支援をよろしくお願いします。

本ニュースのPDF版はこちら。赤十字国際ニュース29号ヨルダン.pdf

中東人道危機救援金を受け付けています。

日本赤十字社では、中東人道危機救援金を募集しています。ご寄付いただいた救援金は、シリアやレバノン、イラク、パレスチナなど、中東地域の各国赤十字・赤新月社と国際赤十字支援活動に充てられますに活用されます。皆様の温かいご支援をお願いいたします。詳しくは、こちら