バングラデシュ南部避難民支援: 大火災の中で避難民コミュニティが発揮したレジリエンス

画像

バングラデシュ南部コックスバザールの避難民キャンプにはおよそ100万人が暮らしています。日本赤十字社(以下、日赤)は2017年の避難民大規模流入の直後から現在に至るまで、バングラデシュ赤新月社(以下、バ赤)や各国赤十字社と協力して避難民の命や健康を守る活動を支援してきました。

今月初めに大規模な火災が発生し、キャンプの人々が直面するリスクが浮き彫りになった一方で、これまでの活動の成果が確認できる場面がありました。日本赤十字社バングラデシュ現地代表部首席代表、清水看護師(日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院)からの報告をお届けします。

火災の概要

3月5日の午後、コックスバザール県ウキア郡にある避難民キャンプの「キャンプ11」で火災が発生しました。

午後3時頃に見えていたのは小規模な煙でした。キャンプは密集しているうえに、住居は竹とブルーシートでできていることから非常に燃えやすく、乾季であったことから火はあっという間に周囲に燃え広がりました。

20230316-896b761a272f5c2c15307b095c59c938d2b7245b.jpg

20230316-bbce4b1b3a1a3746973d4e4cfe4511a7219ebedf.jpg

消防隊などによる懸命な消火活動によって午後5時頃にようやく鎮火しました。避難民キャンプで援助活動をする団体の調整グループISCG発表によると、「キャンプ11」の大部分が焼け野原となり、約16,000人が被災、2,700棟の住居が焼失しました。

HeRAM.PNG

バ赤とスイス赤十字社(以下、スイス赤)が運営しているプライマリヘルスセンターやヘルスポストなど計3か所の保健医療施設が全焼しました。建設したばかりだったバ赤の給水施設も焼失しました。

この火災によるバ赤施設の損害額はおよそ86万スイスフラン(約1億2,600万円)に上ります。ただ、この大規模火災で死者が出なかったのは不幸中の幸いでした。

左図:「キャンプ11」と周囲の医療施設の地図、オレンジ色の3つの医療施設が全焼した。日赤の支援する医療施設は中央付近にみえるHP119(WHO, HeRAMS Cox’sBazar: Impact of camp fire on health service availability, 2023年3月8日 )

国際赤十字の対応:迅速な判断と支援

これまで避難民キャンプ内で防災活動に取り組んできたバ赤と国際赤十字は、発災の1時間後に会議を招集し、緊急対応班を立ち上げました。それと並行して現場ではバ赤のスタッフとボランティアが物資の配付などを行いました。また、移動医療チームが出動し仮設診療所を設営したほか、地域保健ボランティアが応急手当やPFA(心理的応急処置)を行いました。

被災者を支援するため、3月10日には、国際赤十字・赤新月社連盟は災害救援緊急基金から50万スイスフラン(およそ7,300万円)を拠出することを決定しました。

現場では:いち早く駆け付けたボランティアと職員

鎮火するよりも前、周辺に住むボランティアやバ赤職員らが「キャンプ11」に駆けつけました。バ赤職員3人、地域保健ボランティア21人が午後10時まで活動を実施、31人に対し応急処置を、89人に心理的応急処置(PFA)を施し、37人を医療施設へ案内しました。

b0b60cf5-a457-4f64-80d6-d118236639d1 (1).jpg

ボランティアによる活動は火災発生当日夜遅くまで続いた©️バングラデシュ赤新月社

20230317-0200782d6c5fdc1fc57a0a4765a44f1ecad94912.jpg

PSSチームによるPFA(心理的応急処置)©バングラデシュ赤新月社

心理社会的支援(PSS)ボランティアも活躍しました。「キャンプ11」でPFAを行ったほか、状況を確認して被災者から聞き取りを行い、困りごとを見つけ出していきました。たくさんの家族が近隣のキャンプに住む親戚の住居に避難したことを受け、PSSチームは避難先の家庭も訪問し、困りごとやストレスに関する話を聞きました。

画像 まだ火がくすぶっているのか、あちこちから煙が出ている翌朝のキャンプの様子©バングラデシュ赤新月社

焼け野原となった被災地では、住居やトイレの壁も全て無くなりました。プライバシーを守ることができず、特に思春期の少女たちは困難を抱えていました。おとなは配布物資を取りに行ったり、家の片付けや再建の作業に出るなどして不在となり、残された少女や子どもたちは危険にさらされやすくなっています。おとなも非常事態に直面して緊張状態にあります。このような状況でPSSチームは人々の緊張を和らげ、前向きな気持ちを取り戻す手助けをしました。

避難民キャンプでは2021年から2022年の間に3回の大規模火災が起きています。10万人以上の避難民が緊急援助を受けました。今回火災が起きた「キャンプ11」は過去に大規模火災の経験が無かったものの、火災による死者が出なかったのは、火災の広がりを予測して地域住民が助け合って素早く避難できたからだと考えられます。

日赤支援の診療所も防災を強化

日赤が支援する診療所は、火災があった「キャンプ11」に隣接する「キャンプ12」にあります。火災発生地地域から距離があったものの、緊急会議中にスイス赤のPHCが全焼したという一報が入った時には、日赤支援の診療所にも火の手が及ぶかも知れないとの思いが頭をよぎりました。

幸い施設への直接被害はありませんでしたが、一緒に働く地域保健ボランティアの中には「キャンプ11」から通っている人が4人おり、そのうち2人の自宅が被災しました。火災当日は日赤チームのスタッフ間でも、被害状況や安否確認の電話やメッセージが頻繁に飛び交いました。今では全員が診療所での活動に戻っています。

20230316-ed186ef3b75b7a95a77bdc16683af59b0bcbc65c.jpg

「キャンプ11」から通う日赤診療所の避難民ボランティア©️日本赤十字社

20230111_Security Briefing (1).jpg

1月に行われた診療所スタッフへの安全研修©️バングラデシュ赤新月社

日赤診療所では、毎年、消火剤の詰め替え時期に消火器を使用した防火訓練を行ってきました。赤十字のセキュリティチームによる診療所スタッフへの安全研修と施設のチェックも受けました。その勧告に従って、発電機用燃料に引火した場合に備え泡の消火器を追加購入する準備を進めていたところでした。

今回の火災の翌日に、日赤現地職員が診療所を訪れ、現場とスタッフの状況を確認し、発電機用の燃料を診療所建物から離れた延焼しにくい場所に移動する対応をとりました。火災の他にも、サイクロン対策など、緊急避難が必要な場合に備えて施設の裏手にも非常口を設けています。

避難民への継続した支援をお願いします

今回の火災対応で、日赤や国際赤十字が2017年から支援してきた診療所や地域保健、PSSの活動が活かされました。日赤は災害などの不測の事態に備え、地域の避難民が問題に対応する力を伸ばすよう、継続して支援してきました。その結果、スタッフやボランティアは緊急事態に直面した時に落ち着いて情報収集と報告を行い、使命感を持って質の高い救援活動を行うことができました。

また、被災した避難民は周囲の人と助けあい迅速に生活を立て直す力強さを見せました。避難民流入の初期から支援に関わる自分としても大変嬉しく誇りに思います。これからも避難民個人やコミュニティがさらに力を伸ばして発揮できるよう、支援を続けていきたいと思っています。

今後とも皆様からの温かいご支援とご協力を、どうぞよろしくお願いいたします。

*記載がない写真はすべてバングラデシュ赤新月社の撮影したものです。
*国際赤十字では、政治的・民族的背景および避難されている方々の多様性に配慮し、『ロヒンギャ』という表現を使用しないこととしています。

日本赤十字社は、ミャンマーからの避難民の心身の健康と尊厳を守るため、支援活動を行っています。皆さまの温かいご支援・ご寄付をどうかよろしくお願いいたします。

※日赤へのご寄付は、税制上の優遇措置の対象となります。詳しくは税制上の優遇措置をご覧ください。

(税制上の優遇措置について)

本赤十字国際ニュースのPDFはこちら(955KB)